クリスマスの不穏

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クリスマスの不穏

ダリアのビルの前。 「あっ、ちょっと先トイレ!」 「階段で待ってて!」 と葵は光に告げると、コンビニのトイレに駆け込んだ。   光が階段前で、葵を待っていると、 「おう! サンドバッグ!」 「久しぶりだな!」 「俺のケリが恋しかっただろ!」 と、和田が光のお腹を思い切り蹴り飛ばした。  壁にぶつかり倒れ込む光。  ケーキの箱が光の手から離れ壁にぶつかり潰れてしまった。  通りがかりの人が悲鳴を上げる。  携帯で警察を呼んでる人もいる。  それなのに、和田は久しぶりに光を殴れた高揚感で、周りを気にしていられなかった。   『なに? あの人だかり…』 と、葵は気になった。   そして不安になった。 『…光じゃないよね?』 『…光な訳ないよね?』 コソコソ話をする野次馬の声を聞き、祈るように自分に言い聞かせながら、人だかりをかき分け階段前に向かった。  そして、倒れている光を見つけた。 「ダメー!!!」  葵は叫んだ。  葵は、こんな状況の中でも分かっていた。 『光と呼んじゃだめだ』 と言う事に。  そして、倒れる光を庇うように覆いかぶさった。  それを見て和田は、 「おい、ねえちゃん!」 「やられたいのかよ、どけ!」 と叫び、葵のお腹を蹴り飛ばした。  葵は壁に飛ばされ気を失った。  光が葵のそばに駆け寄る。 「あ…あ…あ…」  葵と呼びたいのに声が出せない。  そんな中でも、和田が光の胸ぐらを掴み殴りかかった。   光はそれをかわし、和田を殴り倒した。  光は毎日筋トレをしていたため、本当は簡単に倒せるくらいの力があった。  だが、常に和田に殴られていて抵抗をした事がなかったため、殴ることが出来なかった。  葵が殴られて、光は初めて怒りに我を忘れ、そして守らなきゃと思った。  和田が気を失ったことを見やると、急いで葵に駆け寄った。 「あ…あ…あ…」  それしか言えない自分がもどかしい。  警察官が駆けつけてきた。  そして、和田の顔を見てすぐにダリアへ連絡した。  警察からの連絡で下に降りた香は、驚き動けなくなっていた。   パトカーと2台の救急車がいた。  そして、救急車に和田が運び込まれていくのが見え、少し離れた壁側で葵が倒れていて、光が泣きながら声を必死に出そうとしている。 『…何が起こったの?』  香は、急いで光の元へ駆け寄った。  光は香を見て、泣きながら頭を何回も下げてきた。  警察官が近づき、 「この女性はご存知ですか?」 と、香に問いかけた。 「娘です! 何があったのですか?」 と問いかけると、 「男に殴られた彼を助けようとしたようです」 と警察官に説明された。  香は、しゃがみ込んでしまった。 『この子達に…ここには来ちゃだめだと伝えておけばよかった…』  頭の中で、香は自分を責めた。  そして、我に返り葵の方へ近寄ると、葵は座り込んだままだったが、上半身を起き上がらせていた。 「葵!」 と、香が駆け寄ると、葵は、 「私は大丈夫」 と、弱々しく笑っていた。 「娘さんと救急車に乗りますか?」 と警察官に聞かれた香は、 「はい!」 と返事をした。   すると、 「彼の付き添いはどなたか…?」 との警察官の問いかけに、香は戸惑った。  そして光の方を見ると、大きく左右に首を横に振り、『来ないで』という感じで意思表示をしていた。  その光の姿を見た葵は、 「お母さん!」 と呼びかけた。  そして、香の目を見ながら、 「お母さんは、誰の保護者?」 と、聞いてきた。  香は、戸惑いながら、 「あなたと光の…」 と言うと、葵はすかさず、 「私は意識もあるし、頭をぶつけた訳じゃない」 「私は一人でも大丈夫、…光は?」 と香に問いかけた。  香は、その葵の迫力に黙ってしまった。  すると、 「お母さんが行かないなら私が行く!」 「病院なんて後でいい!」 と葵が泣きながら叫んだ。  香は、葵にも光にも申し訳無く思った。  そして、 「分かったわ、光は任せて」 と、葵に伝え、光と警察へ向かった。  
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