警察のあと…

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警察のあと…

警察に着くまで光は、香が初めて会った時に戻ったかのように、小さくなり下を向いたまま顔を上げることは無かった。  そして警察に着き、連れて行かれた光を待っている時、祖父母が現れた。  そして、祖母が泣きながら、 「息子がお嬢さんに怪我を負わせたようで…」 「何とお詫びしてよいのか…」 「…本当に申し訳ございません」 と、祖父母共に膝を付き香に頭を下げた。 「娘は元気なので、大丈夫なので安心してください」 と香は同じように膝を付き、祖母の両手を自分の両手で握りしめた。  座り込んでる3人の所へ警察官が駆け寄ってきて、 「すみません、現場の映像を動画で撮っていた人がいました」 「一緒に動画を確認してもらってよいですか?」 と、聞いてきたので、3人は頷き、警察官の後に続いた。  光が殴られて何回も倒れる映像を見て、祖母は嗚咽を漏らしながら、 「なんで、こんな酷いことを…」 と、呟いた。  そして、葵が蹴られた映像では、皆が絶句していて、香は倒れてしまいそうだった。  それでも、その映像の続きを見ると、葵を守るために和田に立ち向かう光の姿に目を奪われた。  そして、必死に声を出して葵を呼ぼうとしている姿に胸が痛んだ。 「ユウキが父親に立ち向かうなんて…」 と、祖父母も今までではあり得なかった光の行動に驚いていた。  そして、映像が終わりしばらくして 「佐々木さん、今日はお帰りになって大丈夫です」 と警察官に言われた。 「えっ? いえ、光と帰るので、終わるまで待ちます」 と香が伝えると、警察官に、 「それが…、光君、祖父母と帰るそうです」 「その連絡も光君にお願いされたのでしたんです」 と言われ、香は言葉を失った。 「いえ、私が連れ帰ります!」 「光の本心じゃないはずです!」  そう香は詰め寄ったが、警察官は困った顔で立ち止まったままだった。  どうしたらいいか考えている香に、 「佐々木さん…、ユウキは申し訳無いんだと思います」 「佐々木さんにも、お嬢さんにも…」   「今日は私らの方で連れて帰ります」 「また、ユウキが落ち着いたら、連絡しますので…」 と、祖母が香の手を握り、香に申し訳無さそうに言った。  香は、仕方なく頷く事しか出来なかった。  帰りのタクシーの中、着信履歴を見て小林に連絡した。   騒動を知って、心配しているはずだ。 「もしもし、香さん?」 小林の香を呼ぶ声に、張り詰めていた糸が切れたかのように、香は泣き出した。  泣きながら香は、事の経緯を小林に話した。  すると、 「香さん…、光の気持ち分かってやってくださいよ」 「葵を守れなかった悔しさは半端じゃないはずです」 「少しだけ、待ちましょうよ」 と、優しく香に伝えた。 「分かったわ…」 そう小林に伝えると、香は電話を切って目を閉じて上を向き、シートに寄りかかった。  香が帰ると、もう夜中なのに、葵がダイニングで待っていた。 「光は?」 と尋ねる葵に、言いづらそうに、 「今日は、お祖父さんの所に泊まるそうよ」 と伝えると、 「明日には帰ってくるよね?」 と葵がすぐさま反応した。 「少し、光に時間をあげようよ」 と香が優しく葵に伝えると、 「何の時間?私が勝手に飛び出したんだよ!」 「光は何も悪くない!私が悪いの!」 と叫び、 「お母さん、任せてって言ったじゃない! お母さんの嘘つき!」 と葵は泣きながら、二階の自分の部屋に向かって走って行った。  その姿を見て、香はまた涙が止まらなかった。 『バタン!』 と、大きな音を立ててドアを閉めた葵。  ベッドに目をやると、光に渡すため置いてあったクリスマスプレゼントがあった。  それを見ると胸が痛むので、視線を机に移すと、そこには、サンタさんへの手紙が置いてあった。  紙を見る葵。  そこに書いてある『葵の欲しいもの』の文字を見て、 『光が帰るなら何もいらない…』 そう思い、紙を握りしめてしゃがみ込んで泣き出した。  祖父母の家の光は、ベットで携帯を見ていた。  カメラ機能に気付いた時、思わず葵の寝顔を撮っていた。  その葵の寝顔の写真を見つめながら、 『守れなくてごめん…』 『僕がもっと早く父さんに抵抗してれば、葵を傷つけられずにすんだのに…』  あふれる涙を拭いながら、夜が明けるまで光は、葵の寝顔の写真を見つめていた。
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