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 自宅の駐車場に着いた葵達。  陽子と麻衣は、初めて見る葵の家にはしゃぎながら、葵と並んで家に向かっていた。  光は助手席から降りると、そこからの家を見回していた。  そして、気付いた。  光が家を出てから数週間、建築中のカフェに変化がないことに。  光が建築中のカフェをじっと見ていると、 「光がいないから、作業止まってたのよ」 と、香が運転席から降りて光に言った。 光がいなかったクリスマスの事件から今日までの約三週間、カフェの作業は中断されていたのだ。  光が香を見た。  見つめ合った時、 「一緒に作るって約束したじゃない」 と香は、笑った。  そんな香を見て、光は黙って頷いた。 「明日から作業開始するからね!」 と香は光に伝えると、玄関へと歩いていった。  光は、もう一度カフェに目を向けてから、香の後を追うように、玄関へと向かった。  リビングに着くと、朝と変わらない殺風景な部屋のままだった。 「お母さん! パーティじゃなかったの〜?」 と葵が香に聞くと、香はため息を付き 「飾り付ける時間、どこにあったと思ってるのよ…」 と、呟いた。  葵は電話した時を思い出し、 「確かに…」 と思い直し、 「何か買ってくる…?」 と、上目遣いで香に問いかけた。 すると、香は、 「食べ物系は、小林くん達が買ってきてくれるから、あなた達は二階でトークでもしてなさい」 と伝えた。  葵は、陽子と麻衣を二階の自分の部屋へ案内した。  部屋の中に入り、皆でラグに腰を下ろした。 「長い一日だったね〜」 と、陽子は呟いた。  麻衣も、 「知らない葵がどんどん現れるから焦ったよ!」 と笑って葵に言うと、申し訳無さそうに、 「ごめん! 私、光の事になると周りが見えなくなるみたいでさ…」 と言いづらそうに、葵は答えた。 「でも、良かったね!」 と麻衣が言うと、葵も、 「うん!」 と答えて笑いあった。  それから、葵が学校に来なかった事で、学年がどんだけ心配したかを陽子が、ジェスチャーを交えて説明していた。  葵は、皆に申し訳なかったな…と、思うと同時に、皆の気持ちが嬉しくて、この学校に来て良かったな~と、改めて思っていた。  光が玄関からリビングに向かうと、香が片付けをしていた。  手伝おうとすると、 「色々あって疲れたでしょう? 部屋で休みなさい」  と、香に言われ、二階へと上がった。  葵の部屋から笑い声が聞こえてきた。  安心した光は、自分の部屋へ入った。  ベッドに寝転がると、葵の匂いがした。 「僕を思ってくれてたのかな…」 そう思っているうちに、深い眠りに入っていった。  ダリアの三階の小林の部屋では、小林が慌ただしく電話をかけていた。  今日予約のお客様、そして従業員の一人一人に休業を伝えた。  お客様にはお詫びに次回ワインをサービスする事にした。  憶測の噂を好まない香と小林は、今回の事全て従業員に伝えていた。  従業員も、信頼してくれているから話してくれていると思っていたため、静かに見守ってくれていた。  なので、光の帰宅と葵の笑顔が戻った事を皆が喜び、休業に賛同してくれた。  それは、香の常日頃の周りへの優しさと、小林の信頼感があるがゆえの事だった。  そんな忙しい小林の家では、航も慌ただしかった。 「ケーキどんなのでいいんだ?」 「豪華なデリバリー、どれにしよう!!」 と、携帯でお店を探して悩みに悩み、予約していた。  小林にとっても、航にとっても、光は弟のようだったので、香は知らないだろうが、今日までの二人も暗かった。  光が心配なのに、何もできず、会いにも行けず…とても気がかりだった。  香からの電話で、部屋に電気が突然ついたくらい二人は明るい気持ちになった。  電話連絡が終わったあと、二人は、予約していたケーキとオードブルセットを取りに行き、香たちの待つ家へと向かった。
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