宴Ⅱ

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宴Ⅱ

 リビングでは、賑やかな声が聞こえる。  今日の朝の静けさが嘘のようだ。  香は、光の祖父母を小林や航に紹介したり、陽子や麻衣が、恥ずかしがりながらも、みんなの前で自己紹介をしたりしてから、宴会が始まった。  お腹も落ち着き、その場が慣れてきた頃、光がトイレに行ったのを見計らって、陽子は、 「で、葵さん! いつから付き合ってるの?」 と、手をマイクのようにしながら葵の前に突き出して言った。  それを聞いて、葵は眉間にシワを寄せて、 「えっ? 付き合ってないけど。」 と答えた。  思わず、陽子も麻衣も、 「え〜!!!」 と、叫んでしまった。  その声を聞き、香と小林と航は苦笑いし、祖父母は、訳が分からないのでキョトンとしていた。  そんな大人の表情にかまってられない陽子は、 「あんだけ、ロミオとジュリエットみたいに切なげだったのに???」 と前のめりで聞いてきた。 「…だって、家族だもん」 「家族が突然離れたら悲しいもん…」 と、葵はすねたような顔をして答えた。  言葉が出てこない陽子。  黙ってしまった陽子をちらっと見て、麻衣が、 「言うタイミング考えてたんだけどね、今日の葵達、修羅場のようだったから、学校でかなりの噂話になっちゃってるみたい…よ?」 と、言いづらそうに葵に伝えた。  葵は、思い返してみた。 「あ〜!恥ず!」 「ヤバ! どうしよう!」 と、頭を抱えた。  そして、香に、 「しばらくまた休もっかな?」 と上目遣いで聞いてみた。  すると、ジロッと睨みながら、 「陽子ちゃんと麻衣ちゃんの後輩になるなら良いわよ」 と香に言われ、葵はため息を吐いた。  そんな葵を見て、小林が笑いながら、 「大丈夫!大丈夫!悪いことしてないんだし、気にするな」 と言うと、葵も、 「だよね〜!まぁ、行ってから悩むかぁ」 と、葵は答えた。  そんな葵を見て、 「普段の葵と、光君モードの葵とのギャップに、まだついていけないわ」 と、笑いながら陽子が答えると、麻衣も笑って頷いた。  そんな中、光が戻ってくると、葵が、 「月曜日、どうせ目立つなら、光と学校行こうかな〜」 と独り言のように言い、 「光、月曜日学校行く〜?」 と聞いたら、光は首を横に振った。  葵は思わず、 「え〜! なんでよ〜」 と聞くと、光はカフェの方へ視線を送った。  カフェ作りを手伝ってくれるつもりの光に、香は嬉しかった。  一方の葵は、 「私もカフェ作りしようかな…」 と呟くと、 「じゃあ、後輩になるんだね」 と、陽子に肩を叩かれた。 「それは嫌〜!」 と言って頭を抱える葵に、 「朝待ち合わせて一緒に行こ!」 「みんなでいれば怖くないよ」 と、麻衣が優しく葵に言った。  葵は嬉しそうに、 「ありがとね!」 と返すと、陽子も、 「私だって一緒に行くわよ!」 と、強めの口調でオーバーに言うので、葵は笑いながら、 「ありがと!じゃあ、月曜日よろしくね」 と伝えた。  それを見る大人たちは、温かい眼差しで三人を見つめていた。  光は、祖父母を光の部屋に案内した。  部屋を見回し、 「誰かが選んでくれたのかね?」 と、祖母が光に尋ねた。  光は首を横に振り、自分を指差した。  祖母は、嬉しくて涙が止まらなくなった。  光が自己主張出来るまでになってたなんて…。  今朝まで祖父母の元にいたが、辛そうな光は、以前とあまり変わらないのかと思っていた。  部屋に閉じこもってばかりだったから…。  だから、この家に来て、祖父母はとても驚いた。  表情だけで、光が何となく思うことが分かるときが多かったからだ。  そして、話せない光を、当たり前のように、香も葵も小林達も受け入れてくれている事実に、感謝の言葉だけでは足りないくらいだった。  そして、光は隣のプレイルームを見せた。  光が筋トレをしてると香から聞いていたが、やってる姿を見て、 『強くなりたいんだな…』 と、祖父母は感じていた。
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