宴の後

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宴の後

 祖父母がタクシーで帰り、陽子達を葵と香が送っていってる間、光と小林と航は、3人でリビングにいた。 「お前、強くなったな」 と、小林が光に言った。  光が小林を見ると、小林は優しい笑顔で、 「大切な人がいると強くなれるだろ?」 「これからもっとなれるぞ!」 と伝えると、航が、 「強くなるのもいいけど、光自身の幸せも考えろよ」 と、光に言った。   光が今度は航を見ると、航は、 「葵のためとか、香さんのためとかもいいけど、あの二人からしたら、光が本当は何がしたいか、何がやりたいか、それが大事だって思ってるからさ」 と続けた。  小林も頷き、 「何かやりたいと思えば、俺たちでも香さんでも良いから、ちゃんと話すんだぞ!」 と、伝えると、光は頷いた。  そして、携帯を出しメール文を打った。  その画面を小林達に見せると、 「おぉ!それ、最高!調べとくわ!」 と、小林が嬉しそうに光に言い、航は光の肩を抱き、 「俺も協力するからな!」 と、笑って言った。  しばらくすると、葵と香が帰ってきた。  光の部屋に来た葵に、小林は、 「ちょっと二人で話さないか?」 と言った。  葵は頷いて、自分の部屋に小林を連れて行った。  小林は気になっていた。 それは、葵が学校へ行かず部屋に籠もっていた時の事…。  香が心配で部屋のドアをノックして、優しく問いかけたのに対して、 「お母さんには私の気持ちなんて、分からない!」 「お父さんが辛い時に、仕事ばっかだったお母さんに、分かるはずない!」 と怒鳴った事を。  その言葉に落ち込んだ香は、小林に連絡してきたのだ。  そんな香に、 「今からでも、あの頃の話、ちゃんとしたほうが…」 と、小林が伝えたが、 「葵に批難されても仕方がないの」 と、香は呟いていたのだ。  お節介かもしれない。  でも…。  そう思い、小林は葵と話そうと思った。 「光、戻ってきてくれて、良かったな」 と、小林が話を切り出した。  葵が、 「うん!」 と、笑顔で言った後、 「何話すの?」 と聞いてきた。  小林は、言葉を選びながら、 「この前、香さんには私の気持ち分からないって言ったらしいな〜」 と、優しい口調で言うと、葵が 「あぁ…、それね」 と、ちょっと気まずそうに答えた。  小林は、 「部外者が口を挟む事じゃないけど、ちょっとほっとけなくてさ」 と、言うと、 「だって、ホントの事だもん!」 と葵は怒りながら言い出し、 「お父さんに、3人の思い出作ってあげたかったのに、お母さんは仕事ばっかで居なかったんだよ!」 「お父さんがしたい事沢山してあげたかったのに!」 と、最後は泣きながら小林に話した。  小林は、葵の肩に優しく触れ、 「香さんだって、本当はしてあげたかったんだよ」 「でも、出来なかった…、つらい気持ちに勝てなかったんだ」 と言い、続けて、 「お父さんは、香さんの前では弱音を吐いてたそうだよ」 「何もかもが辛いって」 「だから、お父さんの前では笑顔でいようと決めていたそうだよ」 「そして、葵の前では泣かないようにって」 と小林は言った。 葵は思い出した。 たまにいる病室の中の香は、いつも笑っていて、泣いたことがなかった事を。 そして、それが余計、 「悲しくないの? 冷たすぎない?」 そう葵が嫌悪していた事も。 葵は黙ってしまった。 「香さんの弱い所認めてあげれないかな?」 「誰もがみんな同じ強さじゃないからさ」 「許し合ったり、認め合ったりしながら生きていくんだから」  小林が、下を向いた葵の顔を覗き込みながらいうと、葵は頷いた。  葵は、辛い時でもお父さんの事は、笑って頑張る姿しか見ていなかった。  だから、亡くなるとき、失って悲しかったが、たくさんの思い出を作ってくれたお父さんに感謝して、お父さんに負けない強さで前向きに頑張ろうと思えた。  今回の光と離れた感じとは想いが違った。  もしかしたら、お母さんは、こんな風に辛かったのかも…、と思った。  辛そうなお父さんに何もできない自分が情けなくて、悔しくて…。  もし、そうなら…。   いや、きっとそうだ。  頭の中で、色んな感情を考えた。  そして、小林に目を向け、 「私、お母さんの気持ち、分かったかも…」 と、言い、 「小林君、ありがとね」 「やっぱり小林君は、うちの兄貴分だね!」 と、小林に笑いかけた。  会話を終え、二人で部屋を出ると、葵の部屋の前には、光と航がいた。  葵の怒り声に、思わずドアの前まで来てしまったのだ。  そして、ドアの前で話を聞いていた。  葵は光を見た。  光が優しい顔をしていた。  葵は光に飛びつき、 「お母さんの所行ってくるね」 と、笑顔で伝えると、光が頷いた。  そして、皆で二階から降り、葵は台所で洗い物をしている香の所へ行き、抱きついた。  そして、 「今までごめん、それから、ありがとう」 と、伝えた。 初めて伝えられた感謝の言葉に、香は泣きそうになりながらも、 「もう、みんなの前よ」 と、葵を抱きしめ返して笑った。 そんな二人を、光と小林と航は嬉しそうに眺めていた。
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