贈り物

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贈り物

 光が家に戻って、佐々木家の三人は、穏やかな毎日を過ごしていた。  光とロミオとジュリエットのような事を繰り広げてしまった翌週の月曜日。  葵は、噂話が気になり、少し不安な気持ちで登校したが、陽子と麻衣が、学校の近くの駅から一緒に登校してくれたので、心強かった。  そして、なぜか隣の高校の生徒にまで、 「おめでとう!」 「幸せになってね!」 と言われ、学校へ着くと門のところで、葵のクラスの子達が待ち構え、 『パン!パン!』 と、クラッカーが鳴り、 「おめでとう〜!」 と、皆で拍手をして出迎えられた。  麻衣が、作った笑顔で葵の耳元に近づき、 「だから、言ったでしょ」 と言うと、葵も愛想笑いで頷いた。  祝福の嵐だったが、 「あとは、そっと見守ろう」 と言う話の流れが何故か出来て、光と葵が二人でいても騒がれず、ただ温かい眼差しが向けられるだけであった。  そして、4月。  新たな学年へと変わっていった。  葵の学校は、2年になるときだけクラス替えがある。  葵と陽子と麻衣は、同じクラスを願っていて、希望通りだったので皆で喜んだ。  ただ、麻衣だけは少し浮かない顔だ。 「まあ、落ち込まなくても良いじゃん! とりあえず同じクラスになったんだし」 と、陽子が麻衣を慰めるように言った。  というのも、このクラス替え、成績順にクラスが分かれるのだ。  そして、葵達は、1番成績の低いクラスだった。  担任が来て、皆が席に着く。  担任はクラスを見回し、 「このクラスで嬉しいやつ手を上げろ〜」 と言うと、勉強が苦手な人の集まりだからか、ほとんどの人が手を上げた。  先生は笑いながら、 「とりあえず、勉強も頑張れよ〜! 1年間よろしくな!」 と、挨拶をした。  一方の光は、変わらず年齢高めのこのクラスになった。 ロミオとジュリエットの出来事の後、葵は周りから色々聞かれたが、光が登校中の時、周りで騒がしさはあったものの、光に話しかける勇気のある人がいなかったため、当初から光は不自由なく学校に通えた。  そして校内でも、クラスの人達が『噂話から光を守る』と徹底してくれていたため、通常の生活が出来た。  なので、進級後も変わらない生活を送っていた。  光は、2年生からは今までよりもちゃんと学校へ行こうと、心に決めていた。  香や葵のためじゃなく、自分自身のために…。  光の思考の変化は、周りが思っている以上に大きかった。  2年生の始業式を終え、その週の火曜日のダリアの定休日に、小林と航が進級祝にやってきた。 「二人ともおめでとう〜!」 と、ケーキを葵に手渡すと、葵は喜んでお礼を伝えた。  そして夕飯を食べ終わると、何故か、葵と香をリビングのソファに座らせた。  そして、その前に小林と航と光が立った。  小林が、 「二人にプレゼントがありまぁす!」 と言うと、香と葵はお互いを見つめた。  そして、おもむろに光が二人より前に出た。  小林と航が、光を優しい眼差しで見ている。  葵と香は、光の顔を見つめた。  光は、葵の目を見て、 「あおい」 と言い、そして、香の目を見て、 「かおりさん」 と、大きい声では無いけれど、言葉にして二人に伝えた。  香も葵も泣き出してしまった。   そんな中、小林が二人に説明をした。 「光が戻ってきた夜に、光のやりたいこと聞いたら、声を出して話したいって言っててさ」 と、切り出し、 「で、俺らで病院とかカウンセラーとか探したら、メンタルケアをしながら、声の出し方を教えてくれる先生が居て、二人には内緒で通わせてたんだ!」 と言った。  そして、その後に続き、航が、 「俺らも今、光の声初めて聞いたんだ!」 「最初は葵と香さんの名前を言いたいって光が言ってたから」 と、香と葵に伝えた。  葵は、光に飛びついた。  すると、光が、  「あおい…。 あおい…。」 と繰り返し名前を呼んだ。  香が、小林と航をみて、泣きながら、 「素敵な贈り物…ありがとう」 と微笑んだ。  小林と航も、互いを見やって笑いあった。  香は、抱き合う光と葵を見て、思い返した。  ダリアの定休日に、小林か航が光を迎えに来ていた事を。  毎週連れてくので、気にはなっていたが、 「弟みたいって言ってたからかな?」 と思い、何をしてるかとか光にも聞いていなかった。  そんな事を考えていると、光が葵の肩を抱き、そっと離して、小林と航の方を向き、 「こばやしくん、わたるくん、ありがとう」 と言った。  その言葉を聞いた二人は泣き出してしまった。  そんな二人を、葵と光が宥めていた。  そんな四人の姿を、香も泣きながら見つめていた。
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