やりたいこと

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やりたいこと

 梅雨が開ける頃、葵の教室の中に、麻衣がパンフレットをいくつか抱えて戻ってきた。 「それ何?」 と葵が聞くと、 「進路〜! 今悩み中で…」 と、麻衣は沈んだ顔をした。 「やりたい事、見つからないから、短大に行こうかと思ってて」 と、麻衣がパンフレットを見つめながら言った。  それを聞いて、陽子は、 「私は看護系に行きたいけど、成績微妙だから、悩むよ…」 と、ボヤいた。  麻衣は、パンフレットから視線を上げ葵の顔を見た。  そして、 「葵は?」 と葵に問いかけた。  葵は、 「ん〜、私も進路決まってない〜」 「でも、進学はお金かかるし…」 と、下を向いて考え込んだ。  陽子が、 「なんにせよ、1年から大学のオープンキャンパス行く人もいるんだし、そろそろ考えないとね〜」 というと、二人は頷いた。  学校から帰って、光の部屋に行く葵。  ドアを開けると、勉強している光がいた。 「スゴ! テスト前じゃないのに勉強するの?」 と、葵が思わず聞くと、 「当たり前だと思うけど…」 と、返事が帰ってきた。  光は、初めて言葉を言ってくれた日から、どんどん早く話せるようになって、今は違和感なく話せるようになっていた。  葵は、話せる事が嬉しくて、やたら光の部屋に来て会話が出来る喜びを噛み締めていた。 「光は卒業したら、どうするの?」 と、葵が聞くと、光は少し悩み、 「まだ、分からない」 と答えた。  葵は、 「やったぁ! 一緒だぁ!」 と、喜んで、自分の部屋へと戻っていた。  光は、葵の後ろ姿を見送りながら考えていた。 『葵にとって、僕がそばにいることが本当にいいのかな…』 と。  光が心配で離れたくないからと、葵が本当にやりたい事を諦める事になったら嫌だな…と考えていた。 『とりあえず、今は自分のやりたい事、考えよう…』 と、心の中で思い、また勉強を続けた。
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