3人が本棚に入れています
本棚に追加
香の気持ち、母の気持ち
葵が小学六年生の時に、夫圭祐(ケイスケ)を亡くした。
圭祐とは、25歳離れている年の差婚で、私が22歳の時に結婚した。
圭佑の両親は他界していたが、私の両親は健在で、年の差のある結婚に大反対していた。
絶縁するつもりで結婚したが、葵が生まれたのを期に和解していた。
圭佑の病気が分かり、入院を少ししたが、治る見込みがなかった為、自宅療養をすることにした。
葵と、病院の中ではなく、少しでも普通の親子の思い出が欲しいと、圭佑が希望したからだ。
そんな中、私は働いた。
私は、葵が小学生になった頃から、保険の外交員をしていた。
ノルマがあったため、他の家より私や圭佑に多く保険をかけていた。
その保険や夫の退職金を足すと、私が看病に専念していても大丈夫な程だった。
でも、葵には仕事を掛け持ちしていると伝えていた。
その理由は、ただ一つ。
泣いてしまうのだ。
私が…。
葵と圭佑の仲の良い姿なんて、泣かずに見ることなんて出来ない…。
だから、私は毎日のように実家へ向かい、結婚する前に使っていた部屋で一人泣いていた。
母親失格なのは分かっている。
妻として、3人で笑い合う思い出を、夫にしてあげなくてはいけないことも分かっていた。
私の気持ちを理解してもらえなくていい。
私はただ…
葵の前では泣かないように。
圭佑の前では笑えるように。
それだけしか頭になかった。
両親は、ただ黙って見守ってくれていた。
圭佑を失った悲しみは大きすぎて、葵を気にかけてあげれなかった。
何度も…、何度も…、
たくさんの睡眠薬を片手に、
「今日こそは圭佑の所に…」
そう思っていた…。
でも…、
「最後に葵の顔が見たい…」
そう思って、葵の寝顔を見てしまうと、
「私を失ったら…、葵をまた悲しませてしまうんだよね…」
そう思うといつも睡眠薬が飲めなかった…。
そんな弱い私と違い、葵はすごく頑張っていた。
私がスナック経営を始めたせいで、中学でイジメられていた時も…。
後でその事実を知った時、ただただ申し訳なく思った…。
葵が、心の強い子なのか、強がりなだけなのか分からないけど、圭佑の面影の残る前向きな頑張る姿に、我が子ながら尊敬していた。
…そんなこと、葵本人には言えないんだけど…。
そして、あの子に会った。
「あなたの家族よ」
葵はすごく怒っていたけど、私自身もあの子との出会いからここに来るまでが、あっという間で、なのに説明しようとすると長い理由になってしまいそうだった。
それに、1日に色々あり過ぎて、家に着いたら安心したのか、すごく疲れて眠たくて…。
そんな状態で、ちゃんと話せないと思った私は、あんな言葉になってしまった…。
これが、私達の初めての顔合わせだった。
最初のコメントを投稿しよう!