好きの意味

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好きの意味

 同じ頃のお店が定休日の小林の部屋。  小林と航が向き合って座っていた。 「離れるって…、どういうこと?」 と、小林が航に言うと、航が、  「そのまんまの意味だよ」 と笑いながら答えた。  小林は、 「香さんの事…誤解してる?」 と、航の目を見て聞くと、 「偽るなよ」 と、笑っていたはずの航が真顔で呟いた。   「去年までは、家族を大切にしてる感じだったのは分かってるよ」 「でも、光が来てからのお前は違うだろ?」 「香さんが弱ってる時、心配の仕方が家族に対してのじゃなかった」 「愛しい人に対しての態度だった…」 「俺が分からないとでも?」 と、苛立ちながらも冷静に小林に伝えようと航は話していた。 「お前とは違う気持ちだけど、俺だって香さんや光達が好きだ」 「だから、ずっとキツかったけど、無理してここにいたんだ」 そう言われ、下を向く小林。 「お前の事嫌いじゃないよ」 「でも、ちゃんと愛のある相手と一緒に居たいんだ、俺は…」 そう航は、小林に伝えた。  小林は、 「ごめん…」 と言い、そして、少し考えて、 「分からないんだ。 自分の気持ち…」 と言った。  少しの沈黙の後、 「でも、感のいいお前が言うなら、そうかもしれない…」 と小林が言うと、 「まぁ、初めて女の人を好きになったんだからさ、今の気持ち大切にしろよ」 と、航は泣きそうになりながらも笑って答えた。   そして、 「葵と光には、また落ち着いたら会いに来るって、伝えといて」 「今日光の病院だろ?悪いけど、今日から一人で頼むな」 「俺、今から出てくからさ…」 と、早口で航はしゃべりだし、そして、荷物を持って玄関から出ていった。  一人になった部屋で、小林は静かに泣いていた。  光のカウンセラーは、月1で続けていた。  光を自宅へ迎えに行き、病院へと向かった。  光は、小林の雰囲気がいつもより暗い事に気付いていたが、気付かないふりをしていた。  そして、病院帰り、小林に、 「ちょっと話せるか?」 と言われた光は無言で頷いた。  そして、小林の家に来た二人。  少し黙っていた小林が話し始めた。 「航、家を出たんだ」 「落ち着いたら会いに来るって」 と、無理に笑いながら小林が言うと、光が心配そうな顔で小林を見つめていた。  光の視線に、堪えていた涙が頬を伝う。  光は、小林の肩に手を置き、さすった。  小林は、嗚咽を漏らしながら、 「俺が傷つけたんだ…」 「愛してたはずだったのに…、愛じゃなくなったことに、航に気づかれてしまった…」  本当は隠しておきたい思いを、光に吐き出していた。  光は黙って肩をさすっていた。  同じ頃、香の元へ航がやってきた。 「どうしたの?」 と、香が聞くと、 「ご挨拶に…」 と航は答えた。  そして、リビングに通された。  ソファに座った航は、部屋を見渡した。  この家には、小林との部屋の次に温かい思い出がある。  航は、 「俺、香さんが好きです」 と、香の目を見て言った。  香が首を傾げると、 「同じくらい、光も葵も大好きです」 と、さらに言葉を続けた。 「俺、こんなんだから親に勘当されてて、一人だった所であいつと出会ったんです」 「それから、この家の人達と会えて、メチャメチャ幸せでした」 と話した。  感謝の気持ちは嬉しかったが、話の糸が見えない香は黙って聞いていた。  航が、少し黙ってから、 「俺、あの家出てきました」 と言うと、香は目を丸くして声が出なかった。 「あいつ、俺への気持ちが愛情じゃなくなった事に、馬鹿だから気付かなかったんですよ」  と、笑って言い、 「あいつの事、よろしくお願いします!」 と、頭を下げた。  言葉が出ない香。 「あいつと付き合ってくれとか言ってる訳じゃないんです」 「俺がいなくても、今まで通りでいてやってください」 と、航はもう一度頭を下げた。  香は、少し考えて、 「もしかしたら…私のせい?私が頼りすぎた?」 と、航に問いかけると、 「香さん、ちゃんと自分とも向き合って下さいね」 と言う言葉だけを返した。 そして、 「俺、ここの家族と出会って、自分の事見つめ直して、父親とちゃんと話そうと思ったんです、実は」 といい、 「だから、これから実家に帰って、俺の生き方伝えて向き合おうと思います」 と言い残し、笑顔で航は帰って行った。  一人残された香は、リビングでしばらく動けなくなっていた。  しばらくすると、葵が帰ってきた。  外が暗いのに、電気がついてない事を気にしながらリビングに行くと、暗い部屋で一人考え込んでる香が居た。 「もう! 電気つけなよ」 と、香に言うが、香は黙ったままだった。 「…何かあったの?」 と、今度は優しく葵が問いかけると、 「航君が実家に帰ったそうよ…」 と、香が言った。 「いつ帰ってくるの?」 とすかさず葵が聞くと、香は、 「…わからないんだって」 と言って涙を流した。  それを見て、小林と航が別れたと気付いた葵は、 「小林君に聞く!」 と、携帯を取り出そうとすると、香が葵の腕を掴み、 「だめ! 今はそっとしておいてあげて…」 と、強めな口調で制した。  葵は、香の手を振り払い、 「わかったわよ!」 と怒鳴りながら言い、二階の部屋へと走って行った。  しばらくすると、光から、 「今日は、小林君の所に泊まります」 「明日は学校休むから」 と、香と葵の所へメールが来た。  二人とも、光に聞きたいことが沢山あったが、 「わかりました」 のメールしか送れなかった。
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