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静かな平日
光が小林君の所に住む事を、葵は周りが不思議に思うほど、あっさり認めていた。
葵も悩んでいた。
光に対しての想いが恋なのか…。
そして、周りがどんどん進路を決めていく焦り。
決まらない自分の未来。
陽子は、『いずれ見つかるわよ』って言っていたけど、『いずれ』っていつよ?
先生にも『いずれ』って言えば納得してもらえるの?
光を毎日見ると、そっちへも心が持ってかれてしまって混乱していたので、葵は、心の中を、少し整理したかった。
それでも、土日は光が家にいる。
今までだって、平日は勉強ばかりしていた光を見ていただけなので、それが無くなっただけな気もしていた。
ただ…、平日の朝起きても居ないのは、どうしても胸の奥がもやもやする感じになっていた。
光とだけなら一緒にやりたいカフェ作りも、香もいたので居心地悪く思っていた葵は、今まではやっていなかった。
けれど、土日しか居ない光と一緒にいられるのが、カフェ作りしてる時間だったから、葵も必然的にカフェ作りを手伝うようになっていた。
気づけば、葵は光では無く、母の香を目で追っていた。
そして、時々休憩している時、香がレイアウトの希望を話したり、どんなカフェにしたいかを、光と話していて、葵はそれを黙って聞いていた。
夏休みが終わる頃には、カフェ作りも1年を迎える。
完成も間近だ。
素人で思うように行かない作業は、やり直しを繰り返し、難航ばかりで時間だけが過ぎていくような時もあったが、香と葵と光にとっては、絆を深める日々でもあった。
夏休みが始まると、平日のカフェ作りに、香と葵の姿があった。
今日は夏休みに入った月曜日。
夕食後のダイニング、二人でコーヒーを飲む葵と香がいた。
葵が言うのをためらいながら、
「お母さん…、ちょっと聞いて欲しいんだけど…」
と言い、香の顔を真剣な顔で見つめて、
「私、バリスタになりたい」
と葵は言った。
香は真顔で、
「どうして?」
と、葵に問いかけた。
「お母さんのしたい事を手伝いたいって思ったの」
と言ったあと続けて、
「あっ、それだけじゃないよ」
「カフェの話を聞いてたら、やってみたいと思ったの、ちゃんと資格も取ってさ」
と、葵は香の目を見て伝えた。
香は、
「あなたがしたい事なら応援するわ」
と、微笑んだ。
葵は、頭をかきながら、
「だから、ごめん」
「資格取るのに専門学校に行きたいから、まだお金かかる事に…」
と、言いづらそうに伝えると、
「大丈夫!私、お金持ちだから!」
と、笑って葵の肩を叩いた。
そして、二人で見つめ合いながら笑い合うと、二人揃って涙が溢れた。
こんな風に穏やかに話し合いができる日が来るなんて思わなかった。
光がいなかったら、こんな会話は出来なかった…。
二人は、共に光を思っていた。
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