光の決意

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光の決意

「ユウキ…、あんた、何も話してないんだね…」 祖母が呟いた。  完成祝のあと、光が自分の部屋へと祖父母を案内すると、座って最初に祖母が話しだした。 「ほんとに…大丈夫なんだよね?」 と、祖母は心配そうに光を見つめる。  祖父母は、光がたまらなく心配だった。 「大丈夫、僕が守る」 光が祖母を見つめて言葉を返すと、  祖父が、 「違う!わしらはお前が心配なんだ」 と、光に強く言った。   「僕が守りたいんだ。」 光はそう呟いた。   「父さんは、きっと来る、葵を傷付けに…」 その光の言葉に、目を見開き驚く祖父母。 「会いに行ったんだ…、そしたら、来るってさ」 と、呆れた笑いをしながら、光は伝えた。 「そんな…、警察に話して…」 と、祖母が動揺しながら言うと、 「父さんなら、なんとしてでも来るよ」 と、祖母の言葉を遮り光は答えた。 「僕は葵を守るために、今生きてる」 と、祖父母を見つめていた。 その後、下を向きながら、 「もし、警察沙汰になるような事になったら、ここにはいられないけど…」 と言ってから、祖父母に顔を向け、 「それでも今はここで守りたいんだ」  そう、祖父母を交互に見ながら訴えかけるように伝えた。    祖父母は二人でため息を付き、祖父が、 「くれぐれも気をつけるんだぞ…」 と、言葉を残し、タクシーで帰って行った。  光は、今までの事を思い返していた。  話せるようになってから、まだ会っていなかった祖父母を驚かせたくて、皆に内緒で祖父母の家を訪れたのは、夏休みに入った頃だった。  祖父母の家にパトカーが止まっていた。  不安になり、そっと家の中に入る。  すると、話し声が聞こえてきた。  祖父が怒っている。 「なんで、あんな奴がそんなに早く出られるんだ!」 と。  耳を澄まして聞いてみると、どうやら光の父親が反省の色があると見なされ、数年で釈放もしくは仮釈放されるかもしれないという話だった。  祖父がすがるように警察官に、 「また、傷つけるかもしれない…わしらならまだいい」 「でも、ユウキが傷つけられるのが心配なんです…」 と、訴えた。  警察官は、 「あくまでも可能性です」 「またご相談させていただきます」 と言い、帰っていった。  玄関横の部屋から光が顔を出した。  祖父母は驚いて言葉が出なかった。  光は真顔で、 「じいちゃん、今来た警察の人の名刺ちょうだい」 「僕がもう一度話を聞いてくる」 そう言い、机にあった警察官の名刺を勝手に掴み、家を後にした。  祖父母は、この声が久しぶりに聞いたユウキの声で、こんな言葉が久しぶりの言葉だと気付くと、座り込み二人で抱き合い泣いていた。 「じいちゃん」 この言葉は、ユウキの笑顔と共に聞きたかった…と。  警察で話を聞いた光は、父親への面会を頼んだ。 「今なら…怖くない、大丈夫」 そう、自分に言い聞かせて…。  しばらくすると、警察から連絡があり、面会ができる事になった。   光は、平日一緒にいる小林には自宅へ帰ると嘘をついて、父親の元へ向かった。  面会した父親は、下を向いていて、弱々しく思えた。  光は無言で父親を見つめた。  父親がボソボソと話している。  光が聞き取ろうとアクリル越しに近づくと、 「次は邪魔したあの女探す」 と言っていた。  光は父親の顔を見て睨んだ。  父親はニヤリと笑い、また弱々しい顔になり下を向いた。  光は、父親がダリアにいつか来ると確信した。   葵を探しに来ると。  警察には、釈放する少し前に必ず連絡してほしいと伝えた。  香さんとの約束は守れないかもしれない…。 『お父さんが出所したら、ダリアに近づかないで』 そう言われていたけど…。  心の中で、香に謝っていた。  そして、光は心に誓った。 『葵を絶対に守る』  と。
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