平穏の日々の中で

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平穏の日々の中で

 夏休みが終わり、アザレアがオープンした。  香一人で経営するため、ランチに軽食と飲み物だけのカフェだが、公園の近くということもあり、まばらに小さな子どもを連れたお母さんが来たり、一人で休息を楽しみたい人も訪れたりして、香はカフェ経営を楽しんでいた。  昨年は最悪だったクリスマス。  仕切り直しで、香と光と葵は3人でのクリスマスを過ごした。  3人でシチューやケーキを作り、プレゼントを渡した。  香から二人へは、葵と光おそろいの時計。 『仲良く、これからも時を刻んでね』という意味を込めて。  葵のプレゼントは、香には身につけてほしいと髪留めを、光には常に持ち歩いてほしいからと財布を贈った。  そして、光は、 「プレゼント…、したことないから小林君に相談して買った…」 と、申し訳無さそうに出したプレゼントは、香と葵の誕生石のネックレス。  ダリアの洗い場でのバイト代で買った物だった。  高価なプレゼントを用意した光に驚きながらも嬉しそうに身につける香と葵。  光も、そんな二人を見て嬉しそうな顔をした。  もらった物を持ちながら、笑顔のスリーショットの記念写真。   『今度、どこかへ飾らなきゃね』 と香は心の中で、思った。  初めての三人でのお正月は、三人で元旦の混雑する初詣に行き、人混みに疲れながらも、家に帰ったリビングでは、それすら良い思い出だと笑い合えた。  4月なり、葵と光は三年生になり、葵は専門学校への準備を進めていた。  葵は、自宅から、電車で1時間で通える所に専門学校があると聞き、そこに決めていた。  その頃から、光が時折土日に自宅の方へ帰らず、小林の所にそのまま泊まる事もあった。  香は気にして口に出していたが、葵は気にする様子が無かった。  香が不思議に思い、葵に聞くと、 「私も光離れして、自分の事やらなきゃって思って」 と、笑っていた。  そんな葵が、香は大人びて見えた。  光が高校卒業後どうするかを、香に話してこなかったため、会えた時に聞いてみるのだが、いつも、 「考えてるから、大丈夫だよ」 としか言わない光に、心配にもなっていた。  小林にそれとなく聞いて見てもらおうとしたが、そこまで甘えていいものか悩み、小林に相談できないでいた。  光は、父親に会うまでは、小林の元で働いて経験を積んだり、何かの仕事をするにしても、香のカフェを葵と手伝いたいと思っていた。  そして、葵と香とずっと一緒に暮らしたいと。  それが自分の願いだと気づいた。  でも、父親に会い、変わった。  父親との対峙が終わり、本当に安心して暮らせるようになったら、あの家を出ようと。  今もなお、二人が知れば不安になるような状況下なのにもかかわらず、知らぬ顔で『守りたいから』とそばにいる自分自身にも嫌悪していた。  また迷惑かけると分かっているなら離れなくては…と思うのに、戦うために待ち伏せして守るんだ!という思いの方が強く、二人から離れられずにいた。  だからこそ、すべてが終わった時、こんなに迷惑をかけてしまってる僕からは、もう解放してあげなくては…と思っていた。  次は、自分が捕まることになるとしても、父親を倒すと心に決めていた。  そして、高校生活最後の冬休みを迎えた。
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