対峙

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対峙

 専門学校への合格が決まり、ホッとしていた葵。  陽子や麻衣も自分の志望校を合格していて、あとは卒業を迎えるだけになっていた。  ダリアのある街中も、進学や就職のお祝いムードが溢れ返っていて、街中がキラキラとしていた。  そんな中、香に小林から連絡が入った。  光が重傷だと…。  香は、夕飯の支度をしていたのだが、足から崩れ落ち立てなくなっていた。  そんな中、葵が帰って来た。 「お母さん! ちょっと! どうしたの!?」 と、持っていたバックを投げ捨て、香の元へ走り寄る葵。 「光が…重傷って…」 と、香が小さく呟くと、葵は少し体を強張らせた。   葵は香の肩を抱き、 「分かった。 とにかく落ち着こう」 と、香を落ち着かせながらも、 「病院、行こう」 とだけ言い、小林へ連絡する葵。  香は、動揺しない葵を不思議に思いながらも、光が心配で涙が溢れて止まらなくなっていた。  そして、病院に到着すると、小林が玄関で待っていた。   葵達が近づくと、小林が困った顔で、 「なんか、俺ら面会出来ないみたい…」 と、戸惑いながら言ったため、   「なんで…?」 と、香が力なく答えると、小林は首を横に振った。  すると、警察官が近寄ってきた。 「佐々木香さんですか?」 と問いかけられ、 「そうです! 光に会わせて下さい!」 と、香は警察官に詰め寄った。  すると、警察官から、 「これを光君から託されました」 と、手紙を差し出してきた。  香が受け取り、その手紙を広げて読むと座り込み、泣き出してしまった。  小林が急いで香から手紙をもぎ取り読むと、 『お世話になりました』  それだけが書かれてあった。  香の頭の中には、 「なぜ? どうして?」  2つの言葉がグルグルと頭の中を駆け巡る。  小林からは、 「光と光の父親が揉めてて刺された」 とだけ聞いていた。  手紙をクシャクシャにする小林を見る香。  小林は、言いづらそうに、 「光、昨日父親が仮釈放されたって知ってたみたいで…」 と話しだした。  香は、驚きながらも、次の言葉を聞くために黙っていた。  それから、小林は、 「捕まるの承知で、父親を刺したみたいなんだ」 と、言って下を向きながら、 「ごめん…、知ってたら止めてた…」 と、小さな声で小林は謝った。  静まり返った病院玄関前。  葵が口を開く。 「小林君が止めても、光は止まらなかったよ」 と。  小林と香は、葵を見た。   葵は真顔で、 「光は、私を守るために私らのそばにいたんだもん」 と続けた。   「あなたがなんで知ってるの…?」 と香が聞くと、 「だって、お祖父さんと話してるの、聞いちゃったんだ…去年の完成祝の時に…」 と言うと、葵の目から涙が溢れた。 「あれ? 強くなるって誓ったのにな…」 そう言う葵の目から次々に涙が溢れた。  香は、葵を抱きしめた。 「そんな前から…あなた…」 と、葵の想いにも気付けなかった事も辛く思えた。 「光ね、こうなったら、私達から離れるって決めてたみたい」 と。葵は泣きながら言い、 「止めれないなら、待とうって思ったの」 と続けて言うと、泣きながら香の方を見て、 「何があっても、光は私らの家族だもん」 と言った。  香は、そんな葵の頭を優しく撫でながら、 「そうだね」 「…待ってようか、あの家で」 と、泣きながら笑いかけ、また二人は抱き合った。  小林は、近くにいたのに、光の思いに気付けなかった自分を悔やみ、黙って下を向きながら泣いていた。  葵は思っていた。  いつか私の思いに気づいてくれると…。
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