孤独の中で…

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孤独の中で…

 病院のベッドの上…。  光は思い返していた。  対峙は突然訪れた。  ダリアのゴミ出しをしに階段下へ向かおうとした光は、父親の歩く姿が目に入った。  ゴミをその場に置き、光は父親の元へ向かった。 「よう! なんだ、お前」 「あの女が心配で待ち伏せか?」 と、笑いながら父親は言った。  光は無言で睨む。  ナイフをちらつかせる父親。  父親は怖がらせるつもりだったが、ナイフを見て、さらに光は無言で近づいた。  そして、 「刺せるもんならしてみれば」 と、真顔で光は呟くと、父親は怒りで我を忘れ、光のお腹にナイフを刺した。  少し離れた所で見ていた野次馬が叫び声を上げた。  その声を聞きつけ、警察官が光達の元へ向かった。  チラッと光は、刺されながらもその様子を見て、自分のポケットからナイフを出し、父親を刺した。  刺されると思っていなかった父親は、目を丸くして光を見つめると、光は真顔で、 「どちらかが死んだら終わるよね?」 と言った。  驚いた顔で倒れ込み意識を失くす父親を見て、ホッとした光もまた意識を失い倒れた。  ダリアに、その様子を見た人が教えに飛び込んできた。  話を聞いた小林が、裏口から飛び出すと、そこには光に頼んだゴミが放置されていた。  それを見たら、外の叫び声やパトカーのサイレン、遠くからの救急車の音などの騒がしさが、頭の中で停止したかのように、小林も動けなくなっていた。 「光、このためにここにいたのか?」  小林は、放置されたゴミを見つめながら、心の中で、光に問いかけた。  そして、我に返り急いで光の元へ行き、意識のない光に付き添い救急車に乗り込んだ。  光は、治療を終えた病院のベッドの上で、痛むお腹を抑えながらも嗚咽を漏らしながら泣いていた。  そこへ警察官が現れた。 「今は、誰にも会いたくないです」 と、光が即座に伝えると、 「保護者は必要だけど…」 と言うが、 「必要ないです」 と、頑なに拒絶していた。  警察官も、今は冷静になれないだろう…と思い、 「分かった。 体が良くなったら話そう」 と光に伝えると、 「もしかしたら、過剰防衛になるかもしれない」 と続けて伝えた。  光は、 「何でもいいです」 と伝えると、目を閉じた。  警察官は、その様子を見て、 「また来るよ」 と言い、部屋を出ていった。  警察官がドアの外へ出ると、また光は泣き出した。  父親を刺して、後悔は何も無い。  良かったとさえ思う。  でも、なんとなく察していた祖父母にも、やはりこんな形になってしまって申し訳なく思うし、何より、香と葵と小林に対しての、 『相談しなくてごめんなさい』 『こんな形でお別れでごめんなさい』 そんな思いが強く、涙が溢れ止まらなくなっていた。  病院には、しばらく入院するらしい。  その間は、一人にさせてもらえることになり、光は一人、孤独の中で、ただただ、香と葵を想っていた。
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