卒業

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卒業

 とうとう葵と光の卒業式を迎えた。  葵は、友達と笑顔で写真を撮ったり話したりしていた。  陽子と麻衣は、クラスの子との別れを惜しみながらも、談笑する葵を見つめていた。 「葵、頑張ったね…」 と陽子が呟くと、麻衣は頷いた。 「光くんから、連絡ないんだよね…?」 と聞きながら、麻衣が陽子を見ると、 「無さそうだよね…」 と、呟いた。  そして、目に涙をためながら、 「この前さぁ、彼氏の愚痴を言ってた子の話をした時に、『好きだと思える人の隣に居られる事って、ホントは奇跡だよね』って、呟いたんだよね…。 それ聞いて、思わず泣けてきちゃったよ」 と、陽子は麻衣に話すと、麻衣は頷きながら、 「光くん、帰ってきてほしいね…」 と、独り言を言うように呟いた。  光は、卒業式に来なかった。  出席日数も、何とか足りて、提出物も間に合わせていたため、卒業ができる事になっていた。  卒業式には、光は居なかったが、代わりに、光の前の席の立花が、光の代わりに大きな声で返事をして、光の卒業証書を受け取っていた。   その時、クラスの皆が光を思い泣いていた。  葵達ほどでは無いが、このクラスの仲間も、光を大切に想っていた。  光の初日から『光を守る隊』のように、周りからの噂や色眼鏡から、光が困らないようにしていた。  そして、光が話せなくても雰囲気でしたいことが分かるようになり、クラス自体の雰囲気も活気に満ち溢れるクラスになっていた。  だから、光が登校時に、 「おはようございます」 と、言葉を初めて発してくれた日は、授業そっちのけで、たくさん話し掛け会話を楽しんだのだ。  そんな中、3年生の二学期頃から、急に一人になると考え込む日が続き、時には窓の外を睨むような顔つきにもなり、みんな気になっていた。   でも、光のため、どんな時でもクラスの中は変わらないでいようと、皆が光を見守っていた。  卒業間近になり、あの事件…。  クラスの一人一人が、 『自分にできる事は無かったのか…』 そう自問自答していた。  そして、卒業式前日、  担任の内山が、最後の授業の時、光の現状を伝え、手紙を預かったと言い、語りだした。 『クラスの皆さんへ』 『こんな形でお別れですみません』 『僕をこのクラスの生徒にしてくれて、ありがとうございました』  内山の震えた声だけがする静かな教室が、読み終わる時には、皆のすすり泣きが聞こえる教室になっていた。  内山は、 「光の分も、精一杯卒業式楽しんで、これからの人生も頑張っていきましょう」 と、涙を堪えてクラスを見渡して伝えた。  クラス中でうなずく姿が、教壇に立つ内山の目には写っていた。  その頃…光本人は、少しの間勾留されていたが、釈放されていた。  父親が、刺された事で杖の生活にはなるが、過剰防衛にならなかったからだ。  父親は、息子に刺された事がショックだったのか、光と面会しても下を向いて、無言のままだった。   そんな父親に、 「僕はもうあなたとは他人です」 「あの街からも去ります」  そう話して、光はその場を去った。  それから、父親とは会っていない。  光は、祖父母の元へは戻らず、市の職員の人に探してもらった養護施設の住み込みの仕事をするため、これから住む寮に来ていた。  自分の経験が、少しでも誰かの役に立つかも…と、思ったからだ。  そして今、これから住む部屋の中で、釈放された時に返された物を片付けてた。  財布を取り出す。  小銭入れの所に葵の手作りのお守りが入っている。  光はふと思い出した。 「辛いとき読んで!元気出るよ!」 と言われたことを。  お守りの袋を開けると小さな紙があった。  開くとそこには、 『皆が光を大好きだぞ』 と、書いてあった。  その紙を握りしめると、涙が溢れた。  携帯を開くと、よく見ると、携帯のカバーのカード入れの中にも小さな紙が入っている事に気付いた。  『いつから?』 と思いながらも、その紙を開くと、今度は、 『人生楽しむべし!』 と、書いてあった。  光は思わずクスッと笑ってしまった。 「葵らしいな…」  そう思い、葵を想い恋しく思った。  そして、携帯の電源をつける。  するとそこには、沢山の人からのメールや電話が来たことが記されていた。  その名前を一つ一つみて、涙が溢れた。  すごく恋しかった。  会いたかった。  携帯を強く握りしめた。  しばらくして、ふと、携帯に残された写真を見たくなった。  葵や香との記念写真。  葵の寝顔。  でも、一番最後に撮ったと思われる画像は、見たことのない紙切れだった。  その紙切れを拡大して文字を読む。  そこには…、 『離れてても家族!』 『落ち着いたら帰ってくるんだぞ!』 『死ぬまで待ってやる!』 と、殴り書きのような葵の文字があった。  そして、最後に、 『私はこれからもあなたを愛します 葵』 と、書かれていた。  光は、ただただ葵を想い泣いた。  卒業式の帰り道、葵は香と二人で歩いた。  香は、チラッと、光の学校を見てため息をついて下を向いてた。  そんな母の腕を組み、 「光は帰ってくるよ、絶対に」 と言って、葵は笑った。  そんな葵の笑顔を見て、 「そうだね!明るく気長に待ってようか」 と、香も泣き笑いな顔で笑いかけ、二人は腕を組んで駅までの道を歩いた。
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