光の想い

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光の想い

 養護施設での住み込み生活が、穏やかな時間の中で、一年が過ぎようとしていた。  そんな時、光に来客だと告げられた。  玄関に行くと、そこには小林がいた。 「よぉ!」 と、笑って小林が手を降る。  光は驚き動けなかった。  小林が近づくと、光は少し後ずさりした。 「なんだよ〜、叱られるの分かってるのか?」 と、苦笑いしながら、さらに近づく小林。  そして、光の目の前に立った。  光は下を向いたまま動けなくなっていた。  小林は、光を抱きしめた。  そして、一言、 「ごめんな」 と、光に伝えると、光は泣き出してしまった。  小林は、 「お前は何も悪くない」 「悪いのは、お前の辛さに気付けなかった大人だ」 と言い、 「無理に帰れとは言わない」 「でも、一つだけ…」 と言った後、光の肩を抱き目を合わせ、 「葵も香さんも、今もこれからも、お前の帰りを待ってる」 「…俺もな」 そう言い、ニコッと笑い、 「今度は家で会おうぜ!」 と言い残し、そのまま帰って行った。  小林は、光がいなくなってから、毎週休みの日に祖父母に会いに行き、光の所在を教えてもらいたいと頼んでいた。  祖父母も頑なに光との約束を守っていたが、小林と話し、香や葵が光を待っていてくれる事を一年聞き続け、とうとう教えることにした。  小林は、光に会ったことを、香や葵には言わなかった。  いつか、光は帰ってくるから…そう信じて。  小林が帰ってからの光は、バケツをひっくり返したり、話を聞いてなかったり…上の空だった。  施設長から呼び出された。  光は、 「すみませんでした!」 と、謝りながら頭を下げた。  すると、施設長から、 「椅子に座りなさい」 と言われ、静かに椅子に座る光。  施設長は、光の今までの事を市の職員の人から聞いていていた。 そして今さっき、小林が光に会う前に施設長に会いに来ていた。  施設長が、 「…大丈夫ですか?」 と、優しい眼差しで光に問いかけた。  光は、この一年間施設長の温かさに触れ、心を許していた所があったため、我慢していた涙がまた溢れ出てきた。 「どうしたいですか?」 施設長がまた優しく問いかける。  光は泣きながら、 「わからないんです…」 「どうすればいいか…」 と言い、続けて、 「ただ、小林君に会って、皆が恋しい」 「でも、僕は皆を苦しめたから…」 と言い、下を向いて黙ってしまった。  施設長は、 「会えなくて、苦しいですよね…」 「それは、あなただけじゃなく、あなたを大切に思っている人達も皆、今も辛いんじゃないですか?」 と言い、続けて 「何よりも、あなたがどうしたいかが大切ですよ」 と優しく光に伝えた。  そして、施設長は、 「気持ちが落ち着いたら、仕事に戻ってください」 と光に伝え、部屋を出ていった。  光は、 「会いたいと思っていいのかなぁ…」 そう思いながら上を向いて目をつぶった。
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