光×香

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光×香

 香は、光の手続きをするため、市役所へ来ていた。  光は、夕方のお店を開ける時間まで、ダリアの上の階に住む小林と恋人の航に預かってもらっていた。  小林の家では、座卓の所で正座している光が居た。 「まあ、緊張解けないかもしれないけど、気楽にしてくれて良いんだからな」 と、小林が声をかけた。   「なんか、興味湧くのあるかなぁ?」 と、航がつぶやきながら家の中をキョロキョロし、 「こんなのしか無いや」 と言って、漫画本を座卓に置いた。  そして、 「あとは…あっちのマシーン…とか?」 と、ベンチプレスを指さした。  小林は、 「お前じゃあるまいし…」 「それにか弱き女のコって感じだし、興味わかないんじゃ…」 と呆れた顔で答えながら、光に目をやると、 光は無言でベンチプレスを見ていた。 「えっ!?…あれ、やりたいの??」 と小林が問いかけると、光は頷いた。 「ほら見ろ!ベンチプレスは、老若男女問わないんだよ〜!」 と、勝ち誇ったような顔で航は言い、光にベンチプレスに座らせ、説明を始めた。  しばらくして、ベンチプレスをひたすら上げる光をまじまじと見つめる航。  それに気付いた小林は、 「なんだ、女のコに興味出たのか?」 と聞くと、光を見ながら航は、 「いや…、あの子…、喉仏無いか?」 と真面目な顔で答えた。  その後すぐに、 「お前さぁ…、女の子だよな〜?」 と、航が光に聞いた。  光は黙ったまま固まった。 「もしかして…、男のコ…?」 と、小林が聞くと、光は大きく頷いた。 「え〜!!!」 「はぁ〜!?」 叫ぶ二人の声が響いた。  小林は急いで香に電話をかけた。 「香さん! 今電話いいですか?」 慌てた様子でそう聞く小林に、 「大丈夫だけど…」 と、不安そうに答える香。 「光ですが…、男の子って知ってました?」 と聞かれ、香は言葉を失った。  そして、目の前でコーヒーを飲んでいる祖父母に、 「光って、男の子なんですか?」 と聞くと、  祖父母はきょとんとした顔をしていた。  祖母が、 「そうですけど…」 「えっ?女の子だと思ってたのですか?」 と逆に聞かれてしまった。  頭を抱えた香。 手続き書類でも見逃していた…。 女の子と思い込んでいたせいだ…。 昨日女性用の下着を渡してしまった…。 「すみません…」 と、小さく香は謝り、まだ繋がる電話の向こうの小林に向かって、 「勘違いしてたわ…」 「光に謝っておいてくれない?」 「あと、服や下着を用意してあげてもらえるかしら?」 と、頼んだ。  小林は、弟分が出来たような気持ちになって、 「分かりました〜! 俺らでメッチャ似合うの用意します!」 と、気合いの入った声で答えて電話を切った。  電話を切ってもなお落ち込んでる香とは裏腹に、小林と航は、光と3人で服を買いに行くことにした。  光は着せ替え人形のように色々着替えさせられ、肩まで伸び放題だった髪も美容院で短くしてもらい、モデルのような本来の顔立ちが鏡に映し出された。   「本来はこれかよ!」 「ヤバいぞ! これからモテ期だな」 と、小林が光に笑いかけると、光は鏡の前の自分の姿を黙ったまま、じっと見つめていた。 「あ、女のコが怖かったら、そのままの無表情でいろよ」 「だいたいは近寄って来ないだろからな」 「まぁ、筋トレして鍛えたら怖いもの無しだけどな」 と、光の肩と自分の肩をくっつけて笑いながら、航が言った。  光は、トリートメントでサラサラの短く切った髪に触れ、服もコーディネートされた全身を見ながら、 『スゴい…、全然違う…』 と、心の中で思った。  そして、胸が高鳴る事が初めての経験で、そんな自分にも戸惑っていた。  
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