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新たな家族
桜の並木道が、新緑に変わろうとしている5月の終わりの日曜日の昼下り。
古い商店街の一角にある、小さなアパートの6畳のダイニングでは、携帯で好きな音楽をイヤホンで聞きながら、佐々木葵(アオイ)は一人でカップラーメンを食べていた。
「お母さん…、朝帰り?ってか、昼帰りじゃん!」
「…まさか、事故とかじゃないよね…」
少し心配が頭を過ぎるが、それをかき消すように、音楽のボリームを上げた。
『ガチャ』
鍵を開ける音がした。
葵は、カップラーメンから視線を上げ、ダイニングから玄関を見つめた。
そして、母の姿を捉えると、
「遅すぎ!」
と、少し声を荒らげて、椅子に座ったまま玄関に向かって声を上げた。
すると、
「ごめん!ごめん!」
と言って母佐々木香(カオリ)は、ダイニングに座る葵に近づいた。
葵は、またカップラーメンに視線を戻したが、違和感を感じて視線をまた上げた。
香の後ろに誰かいるのに気付いた。
よく見ると、葵と同じくらいの年のように見える。
でも、顔を隠すように伸び放題のボサボサ頭で、古びたTシャツに破れたジャージのズボンだ。
「お母さん、後ろの子…誰?」
葵は、香に尋ねた。
すると香は、少し考えるような素振りを見せ、その子を自分の前に行くように肩を押して、こう言った。
「あなたの家族よ」
と。
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