逢引

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 これは因果だとキヨミネは告げる。因果応報。善きことも悪しことも、行いは巡り巡って自分にかえってくる。あのときマヒナはキヨミネと会話をしていない。仏像模写に夢中になっていて、それどころじゃなかったのだ。彼は面白そうにマヒナをじっと見つめていた。そして無心に筆を動かしつづける彼女に緑茶のペットボトルを差し入れてくれた。 「マキナさんのいまの年齢は二十七歳って、あのプレートには書かれてましたが、貴女は六年前、高校生だった……そうですよね?」 「はい」  ほんとうは二十三歳の、定職に就いていない木工作家でいまはまだ結婚するつもりもないのだと正直に告げれば、キヨミネは首を傾げる。 「どうして? 俺と結婚すれば寺の離れに貴女のためのアトリエを増設することなど容易いことです。定職に就いていない負い目があるのなら、寺のことを手伝ってくだされば問題ありませんよ」 「で、でもご迷惑じゃ」 「むしろ俺の両親は諸手をあげて歓迎するよ。早く結婚しろしろと檀家衆もうるさいし……」
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