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姉に頼まれて出席したパーティーは、まさかの婚活パーティーだった。朝倉蒔名、二十七歳、事務員。偽りのネームプレートを首にかけて、立食形式の会場に牛のように放牧された真雛ははじめての現場を前に身動きがとれずにいる。
そもそも結婚願望があるのは姉のマキナの方で、マヒナにその気はない。だが、マヒナがどうしても行きたいと思っていた美術展のペアチケットを渡されてしまったら、断れるわけがない。
――大学歴史博物館特別展示、海のお堂のみほとけのすべて!
大学博物館の、年に一度の仏像展。学生時代は毎年欠かさず通っていた展示会だが、社会人になってからは足が遠退いていた。学生料金で気軽に通えていたときと異なり、フリーランスで活動しているげんざいは収入も安定せずバイトと節約の日々がつづいている。そのうえ六月はなにかと入り用でお金がかかる。先週もジューンブライドだという学生時代の友人の結婚式にお祝儀を渡して力尽きたのだから。
そんなカツカツな妹を見かねて、姉はパーティーの代役になってご馳走を食べてこいと甘い言葉でマヒナを言いくるめたのだ。まさか婚カツパーティーだとは思わなかったけどね!
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