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――お姉ちゃんはそんな堅苦しいものじゃないから適当に楽しんでこいって言ってたけど、周りのひとたちの目つき、怖いよぉ。
いちおうパーティーだからと淡い橙色のワンピースを着てきたが、平均年齢三十代前半と思われる婚カツパーティーのなかでは古くさく、浮いている感が否めない。これなら大学の卒業式に着ていたスーツの方がまだ社会人らしかっただろう。周囲の男性は仕事帰りの人間が多いのか、ほとんどが黒やグレーのスーツ姿……あれ、ひとりだけ着物の男性がいる?
「よろしければご一緒しませんか?」
マヒナが目を向けると、男もまた、彼女へ視線を返す。レトロなワンピース姿の女性が珍しいのだろう、ふふ、と柔らかな笑みを浮かべながら手招きをしてくる。吸い寄せられるように男の隣に行き、マヒナはまじまじと彼を観察した。濃紺の長着に上質な白の角帯、手には脱いだばかりのインバネスコート。そこだけ時間が過去に舞い戻っているような場違い感だが、妙に似合っている。
「アサクラマキナさん?」
「あ、はい!」
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