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これまで楽しそうにしていたはずなのに、今の希実の表情はそれが嘘だったかのよう。
「・・・希実? どうした?」
希実は堰を切ったように泣き出した。 人通りが多いところでもあり周りが注目している。
「希実!? どこか痛むのか?」
咄嗟に駆け寄ったため他の誰かが近付いてくるようなことはなかった。 先程のように大声で泣かれなかったのが救いだ。 尋ねると希実は首を縦に振った。
「どこが痛むんだ?」
「・・・胸が痛いの」
「胸?」
思いもよらなかった答えにキョトンとしてしまう。
「どうして利基くんはそんなにも私が好むものを知ってるの?」
「それは・・・」
これから新しい未来を創ろうと思ったばかりの利基に、過去のことを掘り返すようなことは言えなかった。
―――ずっと一緒にいたからに決まってんだろ。
当然希実にはその記憶がない。
「私にとって利基くんは今日初めて会った人なの。 でも利基くんは違うんだよね? 利基くんはずっと前から私のことを知っていたんだよね?」
「・・・」
肯定したくてもできなかった。 肯定すると希実の性格上過度の責任を感じてしまいそうだったからだ。
「どうして? どうして私には利基くんの記憶がないの!?」
「・・・」
「こんなの、酷いよ・・・。 利基くんだけに苦しい思いをさせちゃってる・・・」
―――・・・何だよ。
―――そういう人思いで真面目な性格は記憶を失っても変わらない。
―――なら俺が気を遣って何も返さなかった意味がないじゃないか。
―――・・・でもこれで分かったことがある。
―――希実は正真正銘、俺が惚れた女だ。
利基は希実の後ろ髪を撫でてやった。
「利基、くん・・・?」
「そんなことない。 俺より何倍も希実の方が苦しい思いをしているはずだ」
「どうしてそう思うの・・・?」
「お前はそういう奴だから」
そう言うとより一層希実は涙を流した。
「ッ・・・。 ズルいよ・・・!」
「何がズルいんだ?」
「だって利基くんは私のことをたくさん知っているし、私との思い出もたくさんある。 私にはそれがないんだよ!?」
「そんなこと深く考える必要はない」
「どうしてそんなことを言うの!?」
「これから俺のことをたくさん知っていけばいいし、これからたくさんの思い出を作っていけばいい。 それに今までの思い出は決して嘘になったりもしないんだ」
そう言うと希実は落ち着いた口調で言った。
「・・・利基くんは、本当にそれでいいの・・・?」
「あぁ。 俺の隣にお前がいてくれるだけで俺は幸せだから」
こうして希実が泣き止むまで待ちショッピングを再開した。 その間に希実は早速とばかりにたくさんの質問をしてきた。
「私と利基くんは同じ学校に通っているんだね」
「あぁ」
「学校は毎日行くところ?」
「休みの日もあるぞ」
「今日は休みだったの?」
「あー・・・」
まさかの質問に言葉に詰まってしまった。 今日は休んでいいと思っていたのだが、改めて言われると答え辛い。
希実と同じ時間を過ごすために休んだ、そのような言葉はやはり責任を感じさせてしまうだろう。 あくまでそれは希実が記憶を失う前の約束事だ。
「行かなかったの?」
「まぁ・・・」
「真面目な利基くんだからちゃんと勉強しに行っていそうだったのに」
そう言って希実は笑った。
―――その笑顔は俺の発言を真似しているのか?
相手の性格を見抜き、余裕そうに笑ったように見えた。
―――今日は俺の誕生日で二人で出かける予定だったから学校を休んだ。
―――・・・なんて、言える状況じゃないよな。
「俺だって、たまにはパーっと遊びたい時もあるんだよ」
「ふぅん・・・? そうなんだ」
「よし。 ショッピングはここら辺にして、最後に連れていきたいところがあるんだ」
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