記憶をなくしても、君を見つけたい

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少々車を走らせ到着したのは山を登った先にある夜景が綺麗に見えるところだった。 街からも近く傾斜も緩やかで登りやすい、ただ入り口が分かりにくいためほとんど人が訪れることのない穴場的なスポットだった。 「肌寒くないか?」 そう言って上着を脱ぐと希実に羽織らせた。 希実の手を引き夜景が見えるところまで歩いて進む。 辺りには人はおらず景色を邪魔するものは何もない。 以前、たまたま道に迷い見つけた場所であるが、希実が喜んだことを憶えていた。 ―――昼間に来てもあまり意味はないからな。 ―――今の希実の反応は、どうだ? チラリと見ると夜景を目に輝かせ、今日一番の嬉しそうな表情をしていた。 「わぁ! キラキラ輝いてる!!」 「これを綺麗って言うんだよ」 「綺麗!! 光っているのは何?」 「街が光っているのは全部灯かな。 家の電気とかさ」 「家の電気で綺麗になるの凄い!!」 ―――水族館デートに予約したレストランで食事。 ―――それから夜のショッピングを楽しんで最後は夜景でフィナーレ。 ―――これが今日のデートプランだった。 だがその予定は残念ながら初っ端から挫けてしまった。 いや、もはやそれどころではなかったのだ。 ―――水族館デートは中止。 ―――予約したレストランは俺が好きなメニューがあるということで選んだ場所だったから、今回はキャンセル。 ―――急遽希実が好きなパスタ専門店へと変更した。 ―――フォークで最初は食べにくいかと思ったけど、色々と習得が早くて助かった。 来る予定にしていた唯一同一の場所。 記憶を失う前と今では同じような表情をしていても考え方はまるで違うだろう。 ただそれでも来てよかったと思えるだけの反応が見れて利基は嬉しかった。 ―――俺は幸せだよ、こんな素敵な誕生日を過ごすことができて。 ―――特別な日に希実が俺の隣にいてくれるだけで何より本当の幸せだ。 ―――でも希実は今日という日が何の日なのかも分かっていない。 ―――希実にとってただ遊びに連れていってくれた、ただの親しみやすい男性としか思われていないだろう。 ―――それでもいい。 ―――これからたくさんの時間をかけて俺のものにしていくつもりだから。 ―――だから俺も希実も焦る必要はないんだ。 少し寂しく思いながら手でも繋いでみようか、それともまだ流石に早いだろうか、そのような葛藤をしているところで夜景を見ながら希実は呟くのだ。 「・・・ねぇ、利基くん」 「ん?」 「またよく分からない感情が生まれたの」 「どんな感情だ?」 「苦しくて悲しいの。 でもどこか嬉しいの、温かいの」 ―――苦しくて悲しくて嬉しくて温かい・・・? ―――何だ、その複雑な感情・・・。 複雑で難解な表現だ。 しかし、利基は自分の中にもその難解な表現の感情があることに気付く。 ―――幸せ、とかか・・・? ―――いや、それなら苦くて悲しいが当てはまらない。 ―――これは完全に自惚れているだけかもしれないけど・・・。 「・・・好き、とか?」 「好き?」 「・・・」 教えてあげると希実は納得したように言った。 「好きかぁ! 私、利基くんのことが好き!!」 「ッ・・・」 無邪気な笑顔で言われ心臓が跳ねた。 だが無理に言わせたような罪悪感を感じ慌てて訂正する。 「ごめん、調子に乗った! その感情は好きじゃなくて」 「利基くん」 緊張からか誤魔化すのに声が震えていた。 「好きじゃなくて何だろうな? その特殊な感情は」 「利基くん」 「いい意味でもあり悪い意味でもあるのか。 その感情、俺も何となく分からなくもないよ」 「利基くん」 「ん・・・?」 希実が何度も名前を呼んだことにより利基は落ち着いた。 希実は真剣な表情で利基と向き合う。 言葉を遮られ自然と利基も口を噤んだ。 ―――何だ・・・? ―――もしかして記憶が戻ったとか? ―――流石にこんな状況でそんな都合のいいこと・・・。 そして希実は言った。 「多分私、何度記憶を失っても利基くんを好きになると思う」 「ッ・・・」 驚く利基を見て希実は笑う。 「きっと何度でも利基くんに恋をするよ」
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