記憶をなくしても、君を見つけたい

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「何ですかぁ?」 しばらくすると中から服を着崩した若そうな女性が出てきた。 利基が若そうだと思ったのは、化粧がかなり濃くハッキリとした年齢が曖昧だったため。 20代と言われればそう見えるし、40代といわれても納得するようなそんな見た目だ。 ―――家族は一人。 ―――ということはこの人が母親か? ただどちらかと言えば化粧の濃さというより、だらしない服装やドアの隙間からでもハッキリと分かる乱雑な物の散らかりよう。 ゴミ屋敷とまではいかないが、どう見ても綺麗とは程遠い家の中が気になった。 希実は一人暮らしをしていたためここに住んではいないだろう。 しかし、この惨状を知らなかったとも思えない。 まさかの状態に驚いていると里志が話を切り出してくれた。 「急に訪ねてしまってすみません。 希実さんのことでお話したいことがあるんですが」 希実を案内すると母親は明らかに嫌そうな顔をした。 希実は母の顔も憶えていないのか終始首を傾げた状態である。 ―――俺たちの関係は特に聞かないのか。 ―――男二人が突然訪れたら普通気になると思うけどな・・・。 ―――何というか、娘に対して無頓着。 ―――この感じからしても、幼い頃はネグレクトなんてこともあるのかもしれない。 里志が希実は記憶を失ったと事情を説明した。 ただ母は信じていないのかニタニタと笑っているだけだった。 「ウチの子が記憶喪失ぅ? ふふ。 ふざけたことを言うねぇ」 「ですがこれは本当で!」 「希実。 おいで」 「?」 信じることができないのか、母は希実を手招きした。 希実と母親がどういった関係かは未だ推測の域を出ない。 ただ記憶を失っている現在、希実が母親に何か思うことはないはずだった。 なのに希実は明らかに怯えた表情で一度ビクリと身体を震わせ、恐る恐る母親に近付いていった。 ―――希実が震えている? ―――明らかに様子がおかしくないか? ―――このまま希実を母親に会わせるのは本当に正解なのか? そう思いながらも希実を見送った。 しかしそれをすぐに後悔することとなる。 希実が母親の目の前に立った瞬間、希実の頬を思い切りびんたしたのだから。 「おい!!」 それには利基と里志も反応し、身体を間に滑り込ませようとした。 しかし母親はそれより早く、今度は希実の髪を思い切り引っ張ったのだ。 「記憶を失ったとか何ふざけたことをしてんの!? 人様に迷惑をかけるんじゃないよ!!」 そのせいで希実は子供のように泣き出してしまった。 泣き方は子供のようだが、そこには本心からの心の叫びがあるように見えた。 「そんなみっともない大声で泣くのは止めな!!」 更に母の平手が希実を打つ。 もう我慢できなくなり利基は強引に割って入った。 「流石に母親でも許せません!! 自分の娘に何をしているんですか!?」 利基が無理矢理二人を引き剥がした。 ただその様子を眺めながらもニヤニヤと笑っていて、母親はまるで反省していないようだった。 希実を下がらせ里志に傷の様子を見てもらう。 「別にその子をウチの娘だとは思っちゃいないさ」 「は・・・?」 突然母はケタケタと笑い出した。 「誰が夫なのかも分からない子供なんて、気持ち悪いったらありゃしない」 「夫・・・!?」 「・・・」 その時、母親は初めて切なそうな表情を見せた。 「・・・希実を連れて僕の車へ戻っていてくれませんか?」 里志にそう言われ車の鍵を渡された。 「・・・分かった」 素直に言うことを聞きこの場を里志に任せ、泣いている希実を連れて車へと戻った。 自分も後部座席へ乗り込み希実をあやすように慰める。 「希実、大丈夫か? 辛かったよな」 だが泣き止む気配がなかった。 ―――母親に近付く時、希実は震えていた。 ―――それは意味のない怯えではなかったんだ。 ―――記憶はなくても心は母親に対する悪感情を憶えていたんだ。 そうして先程母親が言っていた言葉を思い出した。 ―――・・・希実は望まれて産まれた子ではなかったと言っていた。 ―――そしてもう一つ分かったことがあった。 泣きじゃくる希実の頭を撫でてやった。 「今まで一人で辛い思いをさせてごめんな」 ―――どうして今まで希実の異変に気付けなかったんだろう。 ―――気付いていればもっと早くに対処ができていたのに。 彼女が記憶を失ったのが母親が原因なら、それまでに何らかの兆候があったはずなのだ。 しかし、利基はそれに気付かなかった。 もちろん里志も気付いていなかったのだから必死に隠していた結果なのだろう。 ただそれでもこんな風になるまで寄り添えなかった自分の無力さが不甲斐なかった。 だから今度こそ彼女のことを守りたいと利基は強く思うのだ。 「・・・希実。 俺を選べよ。 そしたらもう一度、恋に落とさせてみせるから。 何度だって俺のことを好きにさせてやるからさ」
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