狂い、

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「あっ!?なんだお前」 駐車場に足を踏み入れ、漸く僕の存在に気付いた先生は端正な顔を今度は険悪な表情に変えた。怖気付くほどの表情だったが、僕にはそんな険悪さを向けられるほどの落ち度はないはず。勝手についてきたけれど。 「ハナちゃんが手を握ってくれたから一緒にきたんです」 「意図はない」 「……すみません。でも、子犬の事も聞きたいし、お金も払いたいし」 「金はいらないから帰れよ」 「お金は払います。そして今後のことも含めて色々聞いてから帰ります。もしも明日の方がいいなら、明日お邪魔しますけど……」 我ながらに強いなとは思った。言葉は尻すぼみだったけど、でも最初からこの態度だといくら根暗な僕でも頭にくる。 「パパーン、メッ!」 天使の一声はこの冷徹な男にも効果があるらしく、深いため息を吐くと病院の入り口の右奥へと歩いてく。 ハナちゃんは相変わらず僕の手を握り、後を追いかけて玄関へと一緒に向かった。 「あのー、僕は病院側から入った方がいいんでしょうか?」 「帰れ、今すぐに」 「パパッ!メッ!」 ハナちゃんには何も言わずに玄関を開け、仕方なくと言った感じで僕を入れてくれた。 やっぱり玄関もハナちゃん仕様らしく可愛いキャラクターで溢れている。 キースタンドも有名キャラクターのもので、そこに無愛想な先生は当然のように鍵を掛ける。 玄関マットも可愛い犬や猫が戯れていて、この無愛想が選んで買ったのだろうが想像出来ない。 「あの、それじゃあ、お邪魔します」 「此処でいいだろ?何故わざわざ中に入る必要があるんだ」 「……すみません」 確かにと思い玄関を閉めて脱ぎかけの靴をまた履き直した。そんなイライラしている男を目だけで見上げる。 「ワンワンねー、マメトコ」 天使の声に男の表情は緩み、キャンキャン騒ぐ子犬を抱っこしてハナちゃんに笑顔を向ける。 明かりの下で見ると子犬はすっかり綺麗になっていて、ぶんぶんと尻尾を振って無愛想の腕から逃げて僕の足に絡んできた。 「……怖かったはずなのに、僕を許してくれるの?」 抱き上げると小さくて柔らかくて温かい、ペロペロと頬を舐める舌もとても温かくて柔らかい。ちゃんと生きてて、凄く元気そうで。 昨日はあんなに震えていたのに。 「うちの犬になった」 「え?」 「だからもう来なくていい」 嫌悪の表情は無くて、相変わらずの冷めた目だけが僕を見下ろす。 「……わかりました。本当にありがとうござました」 子犬に飼い主が見つかったのもホッとしたし、もうこの人と会うこともない。 ハナちゃんに手を振ると子犬を床に置いてから頭を下げ、せりざわ動物病院の家を後にした。
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