咲いて、

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翌日の朝はとてもぐったりとしていてなかなか起きられなかった。 昨日芹澤さんと会ったことで、自分の中にしまっておいたものが溢れてきたからだ。 元々付き合っていた訳でもないのに、なぜ連絡をもらわなければお店に行っちゃ悪いのか。会いたいなら今まで通り行けばいいだけの話なのに、まるで誠司さんの言葉に縛り付けられたように動けない。 仕事に行っても日課になってしまった確認は自分ではやっぱりどうしようもなかった。 スマホに依存している自覚もあるのに確認する手を止められない、落胆するのもまた日課。 窮屈な日々なのに、どうしてなんだろう。 いっそのこと、嫌いになれたら。 頼まれた仕事をこなして、ポケットにしまっていたスマホを取り出しては確認する。 バカだなって思うのに。 自分からすればいいとも思うのに。 昼食しっかり食べて外にある自販機でコーヒーを買った時、LINEの音にすぐポケットからスマホを取り出して画面を見た。 一気に、今までの辛い日々が一気に無くなったんだ。嘘みたいに無くなって、やっと着た連絡に今までなんて全部洗い流されてしまうくらいにドキドキして。 鷲掴みされた心臓が壊れてしまうくらい。 『今日大丈夫?』そんなただの文字に泣きそうになった。 やっぱり誠司さんは優しいって。 それからの僕は今日の遅れを取り戻すようにバタバタ走って仕事をした。ヘルプ要請に5人でするには多い内容でも文句なんて無かった。会えるって思ったらそんな文句言ってられない。 残業1時間で何とか仕事を終えて急いで帰路に着くと、走って牛丼屋に行き食べたくもない大盛りを掻き込んだ。 毎日来るから顔まで覚えられてしまって、最近では食券買うと同時に大盛りの牛丼が出るくらいで、いつもは少し恥ずかしさもあったけど今日は時間を気にしていたからありがたかった。 急いで家に帰るとシャワーを浴びて、誠司さんの元へと急いだ。タクシー使ってまで店に行くのは初めてで、でも早く会いたいから。 久しぶりに見る青い点の小さな光に、吸い寄せられた虫みたいにドアを開け、階段を降りて聴こえてくるジャズに胸がドキドキして足がすくむ。 どんな顔をして会えばいい? 早く会いたいのに怖くもなる。 そっとドア開ければ泣きたくなるような青。 カウンターに立つその人の後ろ姿にまたドクンと胸の奥が強く脈打つ。 震える足を思い切って進めると、誠司さんは振り向いて僕にいつもの優しい笑顔を見せてくれた。 「待ってたよ、陸」 綺麗な唇が、そう囁いたんだ。  
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