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仕事が終わって急いで帰路に着くと、昨日と同じように牛丼屋へ行く。僕と顔を合わせるなり店員さんは大盛りの準備をしてて、僕は急いで食券を買い席に着くと同時に出てくる。
「いつもありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
こんな会話をすればもう牛丼の大盛り以外を頼むことはないだろう。少しでも太る為に食べたくもない牛丼を思いっきり掻き込んだ。
食事を終えてまた急いで家へと向かい、汗臭い体をシャワーで洗い流す。
洋服を洗濯機に放り込んで、また新しい服を適当に着るとまだ濡れた髪のまま外へ出た。
濡れた髪は寒空の下では凄く冷えて、今度はちゃんと乾かしてから家を出なきゃって撫で付ける。
もう大人なんだからちゃんとしなきゃって、そう思いながらも、今日は誠司さんと会えるんだから仕方ないって思ったり。とにかくドキドキして嬉しくて、こんな日が続きますようにって願ってしまう。
店の前に着いて、まだ青い点が光ってないのが分かると自分でもおかしなくらい早く着いちゃったことに動揺する。だっていつもはもう誠司さんのお店やってて行くの遅いくらいなのに、今日は仕事を頑張ったから。
階段の下で待つのも気持ちが悪いだろうし、かと言って入り口で待ってるのも気が引けてしまい、やっと体が落ち着いたのは電信柱の陰。
店の入り口は見えるけど直接は視界に入らない所、何とも僕にお似合いの場所。
近くには八百屋とかあったりして中年の女性がたくさんいるから、こんな場所にいてもあまり目立たないから丁度いい。
お店は19時から、そろそろ誠司さんが着いてもおかしくない時間。
タクシーで来るのかそれとも歩いて来るのか、そんな事も知らないんだって思うと順番がぐちゃぐちゃなんだって改めて思った。
でも、いざ誠司さんの姿を見た時は手を振りそうになった。今朝までずっと一緒に居たし僕にとっては特別だったから。
でも僕にとって特別でも誠司さんにとって特別とは限らない、そんな事も自惚れてて忘れていた。
知らないうちに込み上げてきたのは吐き気で、一度口から出てしまうと自分じゃどうしようもなかった。
あんなに食べなきゃ良かったって後悔もする。
涙と吐瀉物が一緒になってボタボタ落ちて、口元を押さえても指の隙間からボタボタ落ちる。電信柱の陰でバカみたいに泣いて、地面いっぱいに広がる吐瀉物に鼻水まで垂らして。
誠司さんの目の前には文也がいた。
文也は凄く怒ってて誠司さんは真剣な顔で文也の話を聞いてる。怒っていた文也は途中から泣いて、誠司さんの胸に顔を埋め彼の腕はしっかりと文也を抱きしめている。
文也は誠司さんの服をギュッて掴んでた。
慰めるだけであんな風にはならないと思う。
あんな風には、ならないと。
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