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この恋だって最初から無謀だなと思ってた。
これって辛くなるだけで何にもならないよなって。
でも恋だって一度生まれてしまえば死ぬまで育っていくものだから。
この気持ちが死ぬまではただ辛い毎日を繰り返す他道は無い。
黙って生きてればいい───どうせ、すぐに。
僕は、すぐに……。
こんな年齢になっても迷子の子供みたいに泣くことってあるんだ。相変わらずぽろぽろ落ちる涙と吐瀉物の独特な匂いを纏って、人を避けて何処をどう歩いてるのかさえ分かってなくて、それでもこの苦しさが涙になって流れてくれる訳じゃない。
文也はノンケのはず、だからもしかしたら今見たものも僕の勘違いで……そう思い込もうとしてもやっぱり違うと、あの2人には違うものをはっきりと感じてしまったいた。
あんな真剣な表情の誠司さんを見たことがない、あんなに怒って泣く文也も見たことはない。それが全てを物語ってる気がして居た堪れなくて、もう何が寂しくて辛いのかも分からなくなる。
怒りが無かったと言えば嘘になるのに、でも自分が怒って誠司さんにぶつけてもきっとあの人は怒りもしないだろう。いつもみたいに笑ってる気がする。優しい顔で微笑むだけ。
真剣にもならない、
本気にもならない、
あの笑顔のまま。
文也から何度も連絡があったのに、どうして僕はそれに応えなかったんだろうか。
誠司さんと触れ合えたから文也との約束がいらなくなった、そう感じるのは気のせいなんかじゃない。
もしかしたらあの時に文也を選んでいれば、悲しむ今の僕はいなかったんじゃないかってそう考えてしまう。
目に入った店にふらふらと足を運んで入り口にあるトイレの中で鏡を見れば、地味な自分と目が合ってまた嗚咽を漏らしながら胃液を吐いた。
苦味と痰が入り混じるそれを吐き出しても体中に広がる悔しさが痛い。
口元を冷たい水で何度も洗い、コートまで吐瀉物に塗れた自分の姿に情けなくなる。袖も、胸も、全部が汚れててこれじゃあどうしようもない。
一度コートを脱いでトイレを出ると、店は大きなドラッグストアだと気づいた。お菓子やお酒までも売ってるドラッグストアに足を踏み入れ、カゴに手当たり次第必要なものを入れて会計を済ませ、また臭いコートを羽織って重い荷物を両手に持って歩きだす。
助けて、そう誰かに手を伸ばしたかった。
文也と出会ったことで独りじゃなくなった。
誠司さんと触れ合えたことで、独りが怖くなった。
もう昔に戻れる自信が無かったんだ。
やっとの思いで着いた家、自分のことを知っている人。何度も乱暴に玄関チャイムを鳴らすと足音が聞こえる。
チャイムと同じように乱暴に開かれたドアの向こうには芹澤さんで僕を見て驚きの表情に変えた。
「……どうした?」
その声も表情もとても優しかった。いつも冷たい声なのに、いつも冷たい顔をしているのに、僕はまたぽろぽろと涙を溢した。
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