枯れ落ちる

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芹澤さんの家はとても暖かった。 広いリビングにはおもちゃがあちこちに散乱していて、花ちゃんは泣いてる僕を見てすぐに自分のおもちゃを持ってきてくれる。遊べば楽しいよ、そう言ってくれてるんだと感動した。 マメトコはキャンキャン騒ぎながらぐるぐる回って倒れてはまた起き上がる。元気になった姿を見て欲しいと全身を使って語ってるみたいで、ピンと立った耳がずっと僕の方に向いてる。 可愛いキャラクターのタイルカーペットに花ちゃんの食べこぼしがあるとマメトコは見つける度に素知らぬ顔で食べていてどうやら食いしん坊らしい。 いい意味で考える時間をくれない一人と一匹に自然と僕は微笑んでいた。 「まず風呂に入れよ。まさか感染性の胃腸炎……って事はないんだろ?」 「ちがうけど…….ごめんなさい、いきなり来て」 「いいから入れ」 用意してくれた芹澤さんの服を持たされ、吐瀉物が付いたコートを玄関先のハンガーに掛けてくれる。たっぷりの無香料除菌剤を撒かれたコートは既にビチャビチャだ。 「……そんなに?」 「するだろ、ゲロだもん」 「……そりゃそうだけど」 「いいから風呂入って来いよ、少し落ち着くよ」 「酷い顔してる」そう言って僕の頭を撫でた芹澤さんの温もりがやけにそこに残って、嫌いだと思ってたのにこうして頼る自分も凄く滑稽だった。 服を脱いで全裸になるとシャワーを浴びて体を洗った。 浴槽に浸かれば脱衣所に何回も花ちゃんとマメトコが入ってきて、曇りガラスの向こうで騒ぐ姿がとても可笑しくて、芹澤さんが花ちゃんとマメトコを両脇に挟んで脱衣所から出るのを笑って見てた。 なんだ、笑えるんだ。 こんなに辛いのに笑えてしまうんだ。 苦手で嫌いと思ってた男の家で僕は笑えるんだって、それが何だかまた悲しくもなってくる。 暖かくなった身体を柔らかなキャラクターのバスタオルで包み、芹澤さんのスウェットを着ると結構ブカブカだった。 脱衣所にも花ちゃんのおもちゃがあって、まるで可愛い女の子のお人形が見張ってるみたいに並んでる。 鏡を見れば瞼はかなり腫れていて明日までに何とかなりそうもない。 人形を両手に抱えて脱衣所を出ると花ちゃんとマメトコは待ってましたと言わんばかりに笑顔で迎えてくれた。 「花ちゃん、ごめんね。ビックリしたよね?」 大きなクリクリの目が真っ直ぐで綺麗だ。 そんな瞳に、自分なんかが映っていいのか躊躇いが生まれてくるほどキラキラしてる。 「マメトコ、元気だった?」 キャンキャンと楽しそうにするマメトコと何かを一生懸命伝えようとする花ちゃん、今の僕にはとてもありがたくてまた泣けてきた。
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