枯れ落ちる

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リビングに入ると芹澤さんはソファに座っていて、切れ長の目をチラッと向けてまた本に視線を落とす。 「……すみません」 「違うだろ」 そうだよなと思っても何をどんな風に言えばいいのか分からなかった。 誠司さんと付き合っていた訳ではない、しかも芹澤さんは二度も「アイツに遊ばれるな」とも言っていた。二度目なんて僕は言い返していて、それもあって芹澤さんに話を聞いて欲しいなんて虫が良すぎる気がして。 「あー!」 花ちゃんの声に僕と芹澤さんが見れば、ドラッグストアで購入した袋の中をガサガサと漁っている。 「忘れてた、買ってきたんだよ」 花ちゃんの側に行き腰を下ろすとレジ袋に入った物を床に出していった。 犬のおもちゃ、犬のおやつ、子供のおやつ、子供のジュース、お絵かき帳、クレヨン、今まで一度も買ったことない物を出していく。 「誠司と何かあったんだろ?」 嬉しそうにする花ちゃんとマメトコと遊びながら、僕は芹澤さんに頷くことで返事をした。 「そっか。遊ばれたか」 芹澤さんの呆れた声にまた視界が滲んでいくのが分かって、袖で涙を拭くと花ちゃんと一緒にお絵描きをする。 クレヨンで絵を描くなんていつぶりだろう。 赤のクレヨンでチューリップを描いて、花ちゃんはそれを見てキャッキャ騒いで楽しんでくれる。 マメトコは噛むと音が鳴るおもちゃに夢中なようで、噛みついては体全体をぶるんぶるん左右に振っていた。 「バカだよなー」 「……自分でも、そう思う……」 「違うって、お前の事じゃなくて」 意外な答えにソファに座る芹澤さんを見れば、宙を見たまま深いため息を吐いている。 「誠司さん……文也と何かあったのかも」 「は?文也って、文也くん元気?の文也?」 よく覚えてるなと思いつつ頷いて見せる。 僕と芹澤さんが誠司さんの店で出会した時、確かに誠司さんはそう言っていた。 「……あそこ行く時は、いつも文也と一緒だったから」 「随分とえげつない」 「そう、ですよね」 描き終えたチューリップに緑色のクレヨンで茎を描き、葉っぱも描いて色を染めていく。 涙で滲んで、歪で、どうしようもないおかしなチューリップ。 「パパーン、メッ!」 次の瞬間、花ちゃんは僕を抱きしめていた。 泣いてるのを見てパパから怒られたと思ったらしく、ふわふわのマシュマロほっぺが痩せた僕の頬に柔らかく重なる。 甘い香りのする花ちゃんの小さな体を壊してしまわないように、泣いてるのを気付かれないように、抱きしめて何度も「ありがとう」って繰り返した。
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