枯れ落ちる

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「またその顔になった」 「え?顔?」 「ああ、ぶっさいく」 「はぁ?すっごい失礼!」 僕の反応に笑う芹澤さんは無愛想とは程遠く、喉を鳴らしながらハイボールを飲む。黙っていればかっこいいのに、もったいない男だ。 「不安定な犬見たことある?」 「……ない、ですね。あ、マメトコもそうですか?」 「マメトコもそうだったけど、まだ抱っこ出来ただろ。酷くなると匂いを感じとろうともしなくなる。犬は鼻、鼻で色んな情報を得るんだ」 「マメトコはクンクンしてた。そういう犬は見たことないかも」 話の脈絡が掴めずハイボールを飲むと、重いのに爽やかな口当たりが僕にとても合っていた。隣に座る芹澤さんを見れば同じように飲んでいる。 「犬と人間は同じ、そう思う人がたくさんいるけど違うんだよ。違う生き物として認識してない奴が自分と同じだと思い込む。犬ってのはリーダーがいて群れで生きる。完全な縦社会だ」 「狼とか」 「そうそう。人間を怖がってる犬には、寄り添って待っているよりもリーダーとして引っ張ってあげた方が回復も早いんだよ」 「ちょっと待って下さい、それと僕の不細工って関係あります?」 「大いに関係あるね」 「へ?僕は不安定な犬だと?」 「うん、不安定な犬と同じ顔をしてた」 「そんなぁ」 「犬だったらリード引っ張って愛情注いで肉食わせるけど、こっちは残念ながら人間だから厄介だ」 「……どこまでも人をバカにしてる」 「そうやって思った事を話す今の方がいいよ、広野は」 失礼な奴だなとは思うものの、好きなように話してる自分は確かにいる。 でも犬と同じとはいかがなものかとも思う。 「なんかやっぱりバカにされてる気がするんだけど」 「バカになんてしてないよ、少ししか」 「えー、バカにしてるって事じゃないか!」 笑う芹澤さんに僕は花ちゃんのおもちゃを投げつけ、でもこんな風に話せた事はあっただろうかって過去を振り返る。 そこに居る文也は唯一その存在だったけど、今はもう遠くなってしまった。 「文也ってのと話してみたら?」 「どういう関係かって?」 「だってそれしかないだろ」 「難しいよね、それって」 「一人で悩んでないで、相手にも少し悩ませろ」 また僕の頭に手を置いて優しい切れ長の目と合った。 「お前はやっと人間なんだから」 「やっぱり一言多いよね?」 そんな僕に笑う芹澤さんはとてもかっこよくて、でもやっぱり芹澤直人って人は一言多い。 「その顔で来るなら、話し相手くらいにはなってやる」 「……どうも」 白い歯を見せて笑う彼は頼もしく、こんな人が友達になってくれたんだからって強くなれた気がした。  
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