枯れ落ちる

7/51
前へ
/84ページ
次へ
結局あの後ソファで寝かせてもらい、僕が朝起きると芹澤さんは朝から既にバタバタとしていた。 眠くて機嫌の悪い花ちゃんを起こして、興奮するマメトコをリビングのゲージに入れ、僕の分の朝食まで用意してくれて。 帰りに連絡先を交換して早めに芹澤さんの家を出ると、外に出た途端嘘のようにまた気持ちが沈んでいくのを感じる。 まるで綺麗な夢から醒めて、全部が現実だったと目の前に突き付けられたみたいに。 昨日から確認していないスマートフォンを見れば、誠司さんの『今日は無理そうだね、また今度』の文字に視界が嫌でも滲む。 どういうつもりなんだろう?何度考えても本人意外にはこの答えを持っていない。 文也からの連絡は無くて、そんな事は今までにいくらでもあったのに何故かほっとする自分がいる。 芹澤さんが言っていたように文也と話をするつもりではいたのだけど、本人の口から直接聞いてどのくらいのダメージが自分にあるのかとつい考えてしまう。 どちらにしても文也という親友はいなくなってしまうかもしれない、それが余計に自分の行動を鈍らせていく。 あんな場面を見ていなかったら未だに誠司さん一色の生活だった、でも、もしかしたら、今も。 昨日まで好きで、今日から嫌いになるなんて事があるんだろうか? 突然跡形もなく何にも考えない、そんな事があるんだろうか? 自宅に帰って仕事の準備をしてまた家を出れば今までと同じ日常が始まるのに、それでも何も無かったように出来るんだろうか? 昼を終えた頃には貰ったはずの元気だって空っぽになってた。ぽたぽたと落ちてくる雨に更に気分は憂鬱になっていって、残業が終わった頃にはもう空と同じようにどしゃ降りだった。 牛丼屋を素通りして真っ直ぐ家に帰ると傘を差したのにびしょ濡れになってて、自分にはお似合いだなって、そう言えばこういう役目だったよなって、どんどん卑屈になっていく自分を止めることも出来ない。 結局、簡単には変われない。 誠司さんにはまた抱かれたい、でも文也と今まで通り親友としてもうまくやっていきたい。 それが出来ないから、もうきっと出来ないからこんな風に悩む。 芹澤さんの家にまた行きたいと思った。でもまた迷惑をかけてしまうだけ、僕にとってはプラスでも芹澤さんにとってはマイナスでしかない。 結局一人だ。 昔に戻れないなんて思いながら、やっぱり一人だ。    
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

639人が本棚に入れています
本棚に追加