639人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は茫然としたままで、文也は「ごめん」と言い残してすぐに帰って行く。
一瞬止めようとも思ったのに、呆気なく崩れた関係を前にしてその後何て言えばいいのかわからなかった。
取り残された部屋の中には雨の音とテレビから流れる声だけ、それがやけに苦しくさせてきて体を小さく丸める。
嫉妬で焼かれた心が全身に広がってくみたいで、誠司さんに抱きしめられた肩に指を食い込ませてみた。
ねぇなぜ、優しくしたの、
なぜ、好きなのにこんなことしたの、
なぜ、なぜ、なぜ、
自分のことをバカみたいだなって思っても全然笑えない。
こんなに苦しいのに全然泣けない。
─── 嫉妬しかない。
文也は選ばれて僕は誠司さんの隣に場所が無い、それって今までの自分の結果だったみたいだ。
でも僕も、本当はそこに居たかった。
僕の方がずっとずっと長く貴方を好きだったのに。
自分の家なのに居た堪れなくなって財布とコートを持ち出すとテレビもそのままに家を飛び出していた。
冷たい雨は狂ったように降っていて何処を探しても文也の姿は無い。
見つけたら言ってやろうと思ったんだ。
僕だって誠司さんから声がかかって抱かれたんだって、もしかしたら文也よりも早くそういう関係になったかもって、スマホ見せて驚いた顔を見たら言ってやるんだ「僕も好きだからごめんね」って、まるで遠くの景色を眺めてるみたいに。
付き合ってるなんて言えない分際なのに、言ってやろうと。
最初のコメントを投稿しよう!