枯れ落ちる

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誠司さんの欲情していた目を思い出してもそれとも違う。もっと野性的な目、それは芹澤さんの切れ長の目がそう思わせるのか。 どちらにしても突然の出来事で動揺を隠せない。 可愛い花ちゃん好みのバスタオルで体を拭いて、芹澤さんのブカブカなスウェットを着てリビングに入る。 ソファに座ってる芹澤さんの横顔を見て「押し倒すぞ」って言葉をいきなり思い出してまた赤面した。 「……お風呂……いただきました」 「んー」 「今日もすみません」 隣に座ったものの、さっきの動揺が激しくて文也の事をつい忘れてしまう。芹澤さんは難しそうな本を読んで、視線を僕に向けない。 「雨の中で迷子にでもなったか?」 「まぁ……そんな感じ?」 「で?何があったの?今度は」 「実は文也が家に……付き合ってるって言われちゃって」 「それで雨の中わざわざ外にね。今日の朝は首輪付けた迷い猫。夜は広野だね」 「あはは、ですね」 「ですね、じゃないよ。雨の日に家を出るなら普通は傘くらい持って出るだろ」 「ご尤も」 「知ってる?傘っていう物。人間は雨が降ると傘を差すんだよ」 「知ってるよ、知らなくて手ぶらで出たんじゃない」 「この雨カッパめ」 「はぁ?雨カッパ?なんで?僕ハゲてないし」 「ふーん、んじゃお前はハゲてる奴みんなカッパだと思ってんだな」 「な?」 「世界中のハゲに謝れ」 「なっ!?」 理不尽だ。カッパに関してはとても理不尽だと思う。 「頼むからさ、あんまり心配させるなよ」 この流れでそんな事をいきなり言う芹澤さんも、とても理不尽だ。 「文也ってのと誠司が付き合ってるのを知って広野はどうしたいの?」 本から視線を僕に向けて真面目な声で聞いてきくる。 「どう……したい……?」 「奪いたいの?」 「奪うなんてそんな」 「諦めたいの?」 「諦めるって……どうやれば早い?」 「目的がないの?」 「目的?」 「目的が無くてただ誠司を好きでいたいなら、黙って抱かれてるしかないよ」 「── ッ!」 「それが嫌なら、さっさと枯らしちまえ」 「はは、それいい。除草剤を撒いてもらって、根っこから全部枯らしてもらいたい。そうすれば楽なのに」 「方法ならあるよ」 「え?」 「なぁ、広野。お前分かってる?」 芹澤さんの声が少し低くなった気がした。 「何を……ですか?」 「俺も結構危ない奴だと思うんだけど」 芹澤さんはソファの背もたれに頬杖をついて僕を真っ直ぐに見詰めてくる。 お風呂での事を思い出して、顔に熱が集まっていくのが自分でも分かった。  
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