枯れ落ちる

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「まぁ冗談だけどさ、少し危機感を持って」 「冗談……?」 「冗談じゃない方が良かった?」 「え……」 どう答えればいいんだろうか、冗談でも芹澤さんの纏う空気が甘く感じてこっちはドキドキする。無愛想な表情を知っていただけに今の彼は見慣れない人みたいで、体の奥を擽られている感じがする。 もしこれが猥褻なものなら、誠司さんの時とは明らかに違う雰囲気を芹澤さんは持っている。 「冗談がキツイ人で……参りました」 精一杯の力で何とか返事をしたつもりだ。芹澤さんは僕の返事に口角を上げていつもの笑顔を見せ、その表情でやっぱりただの冗談だったんだと。 「此処に居る時の広野は素直だし顔だっていい顔してるよ、不安定な犬とは思えない」 「うん……だって犬じゃないからね」 「最初は大変だろうけど、二人の事は時間が解決してくれる。ある日突然、かもしれないし」 「一応もう一度言うけど、そもそも犬じゃないから。ある日突然かぁ、それならいいな」 「次にまた不細工で此処に来たら荒療治で抱くかもよ。今日はゆっくり休め」 「はい、ありがとうございます」 あまりに自然な流れで違和感ない言葉に返事をしたが、芹澤さんが立ち上がると今の会話に首を傾げた。 見上げればいつもと変わらない芹澤さんは欠伸までしている。抱くかもって聞こえたのは気の所為かと、もし本当にそう言ってたなら「はいありがとうございます」ってどう考えてもおかしいと思うけど、もう寝る支度を始める芹澤さんに聞き間違いかもしれない今の話を蒸し返すのもどうかと思う。 「あの……」 「ん?」 「今……あの」 芹澤さんは厚手の深いグリーンの毛布をくれて僕が話すのを待っている。 本当に僕が言いたいことが分からないみたいな態度と表情にやっぱり気の所為だと顔が赤くなる。 「なに?どした?寒い?」 「いえ……何でもない」 「そ?寒い時は言えよ。おやすみ」 「おやすみなさい」 柔らかなソファに横になって温かな毛布を掛けると、部屋を出て行く芹澤さんはリビングの明かりを消した。 背中に何か固い物がやたらと当たって、手で確認すると花ちゃんの赤いブロックが出てきて自然と微笑む。 それをテーブルに置いてまたクッションに頭を戻すと明日は花ちゃんにもマメトコにも会えるってまた微笑んだ。 なかなか寝付けずに何度も寝返りを打って、此処に居ると文也や誠司さんの事をあまり考えない事を不思議に思った。 最初は花ちゃんとマメトコが考える時間をくれないからなのかと考えたが、どうやら原因は芹澤さんにあるような気がする。 本当に僕は犬か、飼い主はもちろん芹澤さん。 それはそれでいいかもしれないなんてそう思えるのは、やっぱりこの居心地の良さだと思う。 最初は嫌だったけどこんなにも頼ってるのは、芹澤さんの揺るがないものを感じるからだ。 誠司さんが言っていた「アイツは遊ばない」それって当然なようで凄く羨ましい。 遊んでいるつもりはもちろん無いけれど、文也という恋人がいながら誠司さんの連絡を待つ自分は、芹澤さんの目にどう映っているんだろう。    
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