枯れ落ちる

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「おーい!おー、おーい!」 「んー?」 目覚めると目の前には満面の笑みの花ちゃんのどアップがあった。マシュマロほっぺがむにむにしてて思わずチュッと頬にする。 「おはよー!花ちゃん」 「あーい」 手を挙げて返事する花ちゃんに笑い、マメトコがお腹の上にジャンプしてきて、僕が買ってきたおもちゃをぶるんぶるん振りながら遊ぶ。 芹澤家は今日も朝から賑やかだ。 芹澤さんの朝は昨日と同じで、バタバタと朝食を作りながら花ちゃんの髪の毛をいちごのゴムで二つに結んでいる。 「何か手伝うー?」 「言うのおせーよ」 「あ、だよね」 言われてみればそうだ。二日間も泣いて突然やって来て、手伝いもせずに朝食待ちなんて。 かと言ってやる事と言えば、トースターで焼いたパンを皿に移してテーブルに運ぶというくらいなものだけれど。 「広野、早く一度家に帰らないとヤバイんじゃないの」 トーストを当然のように齧っていた僕は、芹澤さんの呆れた声に視線を向けた。 「なんで?って顔をしてるけど、昨日の雨で服は濡れてるし、今日って仕事だろ?」 「……しまった」 「一度帰った方がいいんじゃないの?」 休みのように過ごしていたが間違いなく今日は仕事の日だ。気が緩んでしまって仕事に行くなんて思ってもいなかった。 抱っこしていた花ちゃんをギュッと抱きしめ、キャッキャ笑ってパンの匂いがする唇の横にチュッとキスする。 「行きたくない」 「今日行ったら休みだろ。一日くらい我慢しろ」 「ハァ……雇ってよ、せりざわ動物病院で」 「なんで犬を雇わなきゃなんないんだ」 「いや、犬じゃないから」 「どうせ此処出たらまた不安定な犬になる」 「なんでそう思うの」 「不安定な犬ってそうだからだよ」 「いやいやいや、そもそも人間だから」 食べ終えてから行くなと泣き叫ぶ花ちゃんにまた来ると約束して、何度も抱っこして宥めてから芹澤さんの家を出た。 濡れた服は芹澤さんが洗濯してくれていて、借りたスウェットにコートを着て家まで帰る。 こうなったらもう芹澤さんの家に自分の私服を置いてた方がいいかもしれない。二日連続で世話になると三回目だって絶対あるはずだ。 この時までは自分が悩んでいる事を忘れていた。 家に帰って明かりもテレビもそのままの部屋に着いた途端、また現実が目の前に現れてくる。 そこに居着いた悪霊みたいに、そっと顔を覗き込んで薄ら笑いする、そんな悪霊が僕の心に入り込む。  
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