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大通りに出てタクシーを待っていると誠司さんからLINEが届いた「また今度」その文字を複雑な気持ちで見詰め、タクシーを見つけると手を挙げて止まった車に乗り込んだ。
自宅の住所を教え、シートに身体を預けると何とも言えない気持ちが胸の奥から込み上げてくる。
路頭に迷ったみたいな焦りと似たもの、行き場を失った感情が自分の中で悲鳴を上げてる。
恋も友情も同時に失って、極端に狭い人間関係の中で唯一浮かび上がるのは芹澤さんしかいない。
自宅に着いてお金を支払いタクシーを降りると、今の時間はもう芹澤さんも寝ているんじゃないかと初めてLINE連絡をしてみた。
すぐに既読が付いて起きている事が分かって、一方的に今から行きたいと伝え、多目に洋服やら飲み物をバックに詰め込み準備をする。
途中のコンビニで花ちゃんが好きそうなお菓子と缶のハイボールやツマミを買ってお店を出て、待ち受け画面が花ちゃんの笑顔になってる芹澤さんから「わかったからインターフォンを鳴らすな」と返事があった。
花ちゃんの眠りを妨げてはならない、じゃあ鍵は開けてくれていると言うことだろうか。とにかく足を進めて仕事場にも近い芹澤さんの家に向かう。
玄関のドアノブを捻れば簡単に開いて、なぜかフロアで待っていた芹澤さんと目が合った。
「今日はまた凄く酷い顔」
「……そう、ですか?」
言われるまま冷たい手で顔を撫でたら、自分が泣いていたのが分かった。涙なんて流してるつもりはなかったのに、泣いてたなんて自分でも気付かなかった。
「本当だ……そっか、泣いてたんだ」
「気付かないくらいなんて重症だね。おいで」
靴を脱いで慣れ親しんだリビングに通される。おもちゃ箱にたくさん詰まったブロックは可愛らしいお城が組み立てられている。
「また色々買ってきた。……なんか飲みたい気分で、コンビニでハイボールも買っちゃった」
「ハイボールあったのに」
「手ぶらって良くないでしょ」
「何を今更」
確かに。クスクス笑う芹澤さんに釣られて僕も笑い、日付けを跨いでやって来る訪問者が言う台詞じゃないなって笑う。
プルタブを起こして芹澤さんに渡すと、僕も隣に座りハイボールを今までないくらいにゴクゴク飲んだ。
「終わっちゃった」
それで全部が伝わるのは彼に何でも話していたからだ。
隣に座る芹澤さんは「そっか」とだけ言って僕と同じようにハイボールを煽った。
「今日初めて、誠司さんの怖さを知った気がする。なんて言うか、悪気が無い恐ろしさって言うか…….」
「えげつない奴」
「一瞬だけ夢見れたならお礼でも言わなきゃいけないんですかね?」
「なんであんなのにお礼なんて言うんだよ」
「だってほら、僕ってこんなだし」
「広野はいい顔してるよ。此処に来るとね」
あんな状況を経験したのに笑っていられたのは、他の誰でもなく芹澤さんのお陰だ。
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