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嫌味な目で見てくる芹澤さんに笑って見せ、四本目のハイボールをまた開けて飲む。
「本当に痛い目みるぞ」
「大丈夫、明日は休みだから」
「そううまくいかないのが子供ってもんなんだけどね〜」
それに飲まないとやってられない。
いくら楽しんでたって嫌な気持ちを実際に経験した夜で、今頃二人は何をやってるのかなんて想像するだけ損なのに浮かんではくる。
結局はこの程度、好きな人とそれ以上になんてなれなくて泣くのが関の山。
もう二度とこんな目に遭いたくない。
「泣くなって」
「泣いてない」
「泣いてる。あんな奴の為に泣くのはもったいないよ、広野。─── 泣いて来たかと思えばケラケラ笑って嫌味言ってまた泣いて、明日は二日酔い決定だ」
「うるさい、芹澤直人」
芹澤さんは笑いながら僕の頭を撫で、その手の温かさが寂しい今は凄く頼りたくなる。
「泣くことない」
芹澤さんの言葉と声にすら泣けてきて、情緒不安定この上ない。
「抱っこする?」
「花ちゃんじゃない」
花ちゃんの方がまだ泣きやむのも早いだろう。
酔いと眠気と切なさに頭が混乱して、芹澤さんの頭を撫でる手が離れていくのを追いかけるように胸に頭を預けた。
「もう忘れろ」
また頭を撫でてくれてその心地良さに体まで芹澤さんに預けて目を閉じる。
「本当は……僕も誠司さんの隣に居たかったな」
「広野は誠司にもったいない」
本気にするつもりなんて無いけれど、その言葉でどれだけ救われた思いをしたか、いつか芹澤さんに話してあげよう。
「おやすみ、酔っ払い」
「寝ない!」
「いや、寝ろって」
本気で寝ないと言ったのに、笑う芹澤さんに抱きついてそのまま眠りに落ちていった。
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