枯れ落ちる

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芹澤さんと一緒に居ると初めてがたくさんあって混乱する。今までの生活には絶対に無かった事が繰り返し起こって、それに対応する自分がいる。 そして新しい友人は、絶対に自分を傷付けない人だとこの数日で嫌と言うほどちゃんと分かった。 「朝から誠司さんの事を一度も考えてないんだ。二日酔いってのもあったけど、不思議だよね」 「大丈夫、これからいくらでも出会いなんかあるから。広野は今のままで居れば嫌でも寄って来る」 「嫌でも?」 「あ、でもまた変なのに引っかかりそう」 「あり得る」 「見る目無いもんね、何せあの誠司だから」 「無いかも。芹澤さんは?」 「あるよ、俺は」 「じゃあそんな芹澤さんが言うんだから寄って来るのは間違いないね」 「そうそう、見る目のある俺が言うんだから広野は大丈夫」 「……ありがとう」 「本当の事しか言ってない」 背もたれに身体を預けるともう外は薄暗くなりつつある。 一度も外に出ていない休日、それでも凄く心地良い疲れが欠伸になって出てくる。 「ずっと此処に居たいなぁ」 今から自分のアパートに帰るなんて考えられなくて、帰ったらまた一人で悶々と考えるのかって思うとなかなか体は動かない。 「気の済むまで居ていいよ」 「どうするの、気が済まなかったら。いつまでも居るようになるよ」 膝に乗るマメトコも丸まって寝はじめて、柔らかな背中を撫でながら自分の眠い目を擦った。 「あ、睫毛付いてるよ」 芹澤さんの指先が僕の目尻に触れ、その温かさに顔が熱くなる。何も意識しなくていいはずなのに近付く顔を直視出来ない。 「そんなに恥ずかしがられるとこっちまで照れてくるんだけど」 「だって近いから」 「昨日は抱きついてきたくせに」 「──ッ、昨日は酔ってたから」 「そんなに純情そうなのに誠司とね、それ考えると少し複雑な気分になる」 「……どうして?」 「どうしてだと思う?」 睫毛を取る為に集中している芹澤さんのトーンの低い声が鼓膜を揺らして、思わず彼を見たら目尻を見ていた目が僕に移る。 こんな状況で直美さんが言ってた事を思い出し、急に忙しなく動き始めた鼓動に苦しくなってまた視線を逸らした。 「花が起きたら外に食事でも行く?」 「……うん」 「良し、取れたよ」 離れていくと昨夜と同じ香りだけが、いつまでも残ってた。
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