枯れ落ちる

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花ちゃんが起きたのはそれから一時間後だった。起きたと言うよりはまだまだ眠りそうな花ちゃんを起こしに部屋に入り、僕は初めてリビング以外の部屋を見る。 シンプルなセミダブルサイズのベッドが一つ置かれた8畳の部屋は、天井に蓄光の星形ステッカーがたくさん貼ってあって可愛らしく、何処の場所を見ても花ちゃん中心の生活をしているんだと分かる。 ベッドに眠っている花ちゃんを起こしてもなかなか起きなくて、何度か呼びかけていたら目を開けて今度は泣き始めた。 芹澤さんと二人で宥めて外に連れ出した頃にはもう暗くなっていた。 芹澤さんの車はベンツのGクラス、SUVの黒。 後部座席に乗ると皮のシートは座り心地も良くて、運転席の後ろには花ちゃんの好きなキャラクターのチャイルドシートが備え付けられていた。 「儲かってるんだね」 「何言ってんだよ、何年乗ってると思ってんの」 「僕にはベンツなんて一生買えない」 「なんならこの車あげようか?メンテナンスと車検の金額が半端ないけど」 「無理」 メンテナンス費用はかなり高いと聞いた事がある。笑う芹澤さんを無視して花ちゃんと遊び、社用車とは全く違う滑り出しに興奮する。 「何処のお店に行くの?」 「何か食べたいのある?」 「牛丼以外なら何でも大丈夫」 「牛丼以外ね、花も食べられて牛丼以外」 「いつも何処行くの?」 「外食はほとんどしないよ。花と一緒だと大変だから」 「そっか、そうだよね」 花ちゃんはもうチャイルドシートに固定されているのが我慢出来なくなってきたらしく、何とか脱出しようとギーギー引っ張ってる状態だ。 「何処でもいいから早く!怪獣が騒ぎ始めた」 「わかった」 姫のご機嫌は更に悪くなって、睨みつけるように僕を見ては外せと言わんばかりにベルトを叩き始める。 これじゃあ外食なんて無理だよなと思いながら、花ちゃんをどうにか楽しませようと試みても笑うどころか二才の子に大きな溜め息まで吐かれてしまった。 程なくして着いたのは中華料理屋。 駐車場に着くなり急いでベルトを外すと天使はニヤリと悪魔のような笑い方をする。 やっと解放したな?って顔だ。 「花ちゃんご飯食べよ」 「あーい!」 「広野、店入ったら覚悟しとけよ」 シートベルトを外す芹澤さんは肩越しに僕を見てそう口にする。花ちゃんの事だとすぐに分かって強く頷いた。 「麺類は伸びちゃうから炒飯とかのご飯物の方がいいかな?」 「さすが。でも広野は好きなの食べな」 目も合わせずにさらっとそう話す芹澤さんの優しさに触れると、いつも最初の頃に会った無愛想を思い出してしまう。 本当に同じ人間なんだろうかって。 「ねぇ、兄弟って直美さんだけ?」 「うん、なんで?」 「別に何となく」 「直美だけだよ。広野は?」 「顔の似た妹がいる」 「美人じゃん」 「え?なんか照れる」 「なんで?」 本当に双子とかじゃないのだろうか。
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