634人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
花ちゃんはコンビニの中を少し散歩して、僕は適当に買い物をすると今度は芹澤さんが運転する。
久しぶりのMT車の運転は車を降りると爽快感と同じくらいの疲れも出て、花ちゃんと後部座席に乗るとまた姫をベルトで固定した。
車が走り出すと、自分はぎこちない操作をしていたんだって乗るとよく分かった。
「これからまた三人で出かける時に運転させてくれる?」
「勿論、いいよ」
「遠出したいけど、花ちゃんが許してくれないかな?」
「休みながらだったら大丈夫じゃない?」
「そっか!休みながらねー?花ちゃん」
「あーい!」
窓から見える景色もベンツだと別格みたいな気がする。自分の車じゃないのに少し威張りたい気持ちになるのはろくな人間じゃないからかも。
大人しくなった花ちゃんを隣に乗せ、窓の外を楽しんでいたところに、その後ろ姿を見た。
「──ッ!」
その姿は確かに誠司さんと文也で、お店に行く途中なのか二人並んで歩いてた。
心に広がる鈍い痛み、でも酷くはない、流れる景色の中では一瞬だった光景に自然と顔が歪む。
「広野!」
「んー?」
ミラーを見れば切れ長の目と合う。
この人のお陰で酷い気持ちから解放されたのは間違いない。
「今夜は俺に付き合えよ」
「まだ居てもいいの?」
「広野は俺と一緒に居たくない?」
運転する芹澤さんの目線はもう前を向いている。
俺と、その言葉に自然と口を開く。
「一緒に居たい」
失恋で確かに弱ってはいたはず、でも一人になりたくないと言うよりは、芹澤さんと一緒に居ると凄く心地良かったからだ。
最初のコメントを投稿しよう!