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酷く揺らめいている眼差しに僕が相手じゃ不満なんだと咄嗟に思った。ごめんねって逃げようとした唇を塞がれて安堵が広がる。
軽くされたそのキスは名残惜しくすぐに離れて、切れ長の瞳を覗き込み自分から口付けてみる。
自分でも信じられなかった。
失恋したばかりですぐにこんな風になって。
でも誠司さんなんて頭にこれっぽっちも無くて、ハイボールの香りが残る唇の柔らかさに夢中になってた。
キスしては離れ、芹澤さんにもこの欲情が移ればいいと願いを込めて。
「陸……」
「っ、芹澤さん……」
甘い声に胸の奥が苦しくなる。
芹澤さんは僕の弱々しいキスとは違い、唇を挟みながら徐々に粘膜が触れ合うそんな優しいキスをする。とっても丁寧で、緊張が解れて感触が心地良く感じるくらいに何度も。
性急な人にはきっと出来ない、芹澤さんの人柄がよく出てる気がする。
何も考えられなくなって、舌が扉をノックするみたいに唇を柔らかく打つ。たったそれだけで、もう。
見計らったように舌が差し込まれる。
「んん…」
口内に入ってくる舌の柔らかさ、粘膜が刺激し合う官能的な響きに思考まで奪われていく。
芹澤さんの感触に体も心も震え、どうしてこんな状況になったかなんて今はどうでもいい。
例え、彼にとってはちょっとした遊びでも。
離れてほしくなくて芹澤さんの肩を抱き寄せれば、見た目以上にがっちりした体躯が掌から伝わってくる。
まるでそれが合図にでもなったように、突然奪われるようなキスに変わって呼吸がうまく出来なくなった。
「ん……」
苦しくて滲んだ視界の中、唇が離れて酸素が足りず口で呼吸する。
「怖いか」
低い声色にドキッとしても答える余裕はなく、黙ったままで首を横に振って否定した。
そのまま首筋に顔を埋め、芹澤さんの舌がツッと舐め上げる。目を閉じて擽ったい快感に眉を寄せ、キスは鎖骨へと降りて僕の薄いトレーナーの下から温かな手が腹を撫でてくる。
「目隠しする?」
「どうして、」
「顔、違うから」
誠司さんのことを言ってる。
それがちょっとショックで返事をするのが遅れると、芹澤さんは困ったように微笑んで僕の視界を大きな手で隠した。
「…そんな事しないで」
芹澤さんの手を自分ので外し、求めるように目の前の彼を見る。
一瞬で跳ね上がる鼓動に視界さえも動いたみたいで息をするのも忘れた。
「あ……」
半開きの口から漏れた声は少し恐怖が混ざってた。
目の前に居るのは、今まで優しかった芹澤さんとは違う表情をした男の姿だ。切れ長の形のいい瞳は獰猛さを宿して野性的だった。
「じゃあ遠慮なく」
顔と合ってる声が落とされ、薄手のトレーナーの下で芹澤さんの手が確かめるように肌を撫でていく。目を合わせたまま固まった僕を見ながら、彼の指先が胸の突起を一瞬だけ掠めて、全身に甘い痺れが走った。
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