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「あちゃ〜!おーい!おーーーい!」
花ちゃんの朝はとてつもなく早い。
なかなか起き上がれない僕を大きな瞳で見つめ、セミダブルベッドの真ん中で俯せになってて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「陸、ご飯食べる?」
「今は……あれ?声が出ない」
「風邪?」
花ちゃんも早いけど芹澤さんも早い。
ガラガラ声に昨夜のことが思い出されて顔を隠すも、彼は追いかけるようにまた顔を覗き込んでくる。
「熱ある?」
心配そうな振りしてその声は完全に面白がってる。
いつもと同じようにしたくても自覚してしまった想いにまた振り回されて、直視出来そうもないのだからそっとしといてもらいたい。
芹澤さんと花ちゃんのベッドだけれど。
「りーく、ご飯食べて出かけようよ」
「この体で?」
「痛いんだ?やっぱり」
覗く芹澤さんをチラッと見れば凄く心配そうだ。
「痛いんじゃないの、怠いの」
「痛くない?」
「痛くないよ」
「じゃあ起きよう!花ー!手伝って」
「あーい!」
芹澤さんに両脇を抱えられて体を起こされると、はしゃぐ花ちゃんと声を聞いて走ってきたマメトコは興奮状態になる。
「歩く!自分で歩くって!」
「歩けるのかよ」
正直言えば腰に力が入らない。そして何か大きなモノがまだ挿ってる感じがする。
「しっかり広げたからまだ戻らない?」
「うるさい」
笑う芹澤さんを睨んでリビングに戻ると、テーブルには三人分の朝食が既に並んでいた。
「僕ってどんだけ世話になってるんだ」
「何を今更」
「上げ膳据え膳ってこの事だよね?」
「大丈夫、体で払ってもらうから」
「うわ……それって最低」
「確かに」
トーストを齧って目の前に座る芹澤さんを見れば、花ちゃんと楽しそうに食事をしてる様子をじっと見詰めてた。
亡くなった奥さんがいて、花ちゃんという存在がいて、これってまた無謀以外の言葉ってあるのか。深いため息に芹澤さんが僕を見れば、その視線にさえ熱くなった。
「え……なんで顔赤いの……やっぱり風邪?」
本気で分からないこの男に、身近に居ながら片想いってどんだけだ。
「喉痛い?風邪引いた?」
「……黙れ、芹澤」
「はぁ?」
素っ頓狂な声を出す芹澤さんから目を逸らす。これって本気で、寧ろ誠司さんの時よりも難易度が高い気がする。
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