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三人と一匹で小高い山にある公園へ行き、遊び回って帰宅したのは20時を過ぎていた。
久しぶりにも感じる部屋は芹澤さんの家とは比べるのも失礼なくらい汚れてて、一時間かけて掃除と洗濯をして明日の準備をした。
ベッドに座ると妙に寂しくて、また芹澤さんの家に行こうかなんて本気で考えてしまう。
もし行ったらどんな顔されるだろう。
芹澤さんは優しいから、きっと簡単に邪な感情を持つ僕を部屋に入れてくれるだろう。
風呂入れとか、何か食べるかとか、ハイボール作ってくれて自分は次の日に残らない程度のお酒しか飲まなくて。
花ちゃんを寝かせてる時間はもうとっくに過ぎている。
ここ数日一緒に居て分かったルーティンは、この気持ちを悶々とさせてくるだけで解決してくれるものじゃない。
スマホを取り出して芹澤直人の名前を出すと、すぐにでも電話してしまいそうな自分を戒める。
もう早く寝てしまおう、さっさと寝て、明日になれば嫌でも始まる仕事との往復が僕を支配するはずだ。
洗って濡れた髪をそのままに暗くしてベッドに潜り込むと、また暗闇の中で芹澤直人の名前を画面に出した。
LINEだけなら、とか。
忘れ物ある振り、とか。
今何してた?とか。
たったそれだけの事が難しく感じてくる。
夜中に今から行くと迷惑行為をしたはずなのに、恋愛感情って本気で厄介だ。
友達のままって結構辛いものなんだろうか?
それとも、今までよりはちょっとでもマシなんだろうか。
そんな時にかかってきた電話の着信に僕は舞い上がった。最初こそ自分から電話したのかと思ったけれど、僕からじゃないと理解すると胸が熱くなる。
「……はい」
「変な感じがする」
こっちは努めて平静を装っていると言うのに、開口一番の台詞はそれかと項垂れた。
「なにが!」
この人と話す時、自分を偽る必要がない。
嫌味たっぷりで聞いてみれば、芹澤さんは電話の向こうでクスッと笑ったように感じた。
「陸がいないと、変な感じがする」
「……今から行こうか?」
「寝ろ、おやすみ」
「なっ!?」
すぐに切れた電話を呆然と見詰め、画面に残る芹澤直人の電話を指先で操作する。
「なんだ」
不機嫌な芹澤さんの声、でも面白がってるのも分かる声、無性に腹立つ好きな人。
きっとコイツには分からない。
「俺に会いたくなったんだろ」
「……会いたい」
そう言ってから笑ってやろうと。
「俺も会いたい」
「…っ!」
「おやすみ」
また電話を一方的に切られた。
そしてそんな返事が返ってくるから、僕はどうしてもこの言葉を素直に喜んでいいのか分からない。
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