640人が本棚に入れています
本棚に追加
中途半端な大学を卒業、そして同じように中途半端な会社に就職をして現在に至る僕は、こんな会社にも居場所というものが無い。
いつも何かを頼まれて、それこそお昼の時間まで奪われバカみたいに働いてる。
大手企業の下請けの下請け、電化製品のパーツを製造し続ける底辺の会社は残業代も出ない為に貯金も増えることはない。このままこの会社で働き続けるのかと思うと苦しくはなるものの、辞めて違う場所に働き口を見つける勇気もない。
社員48人の中、ブルカラー組の僕はどんな風に見えるんだろうか。
それとも、見えてすらいないのかも。
事務、営業、現場、少ない人数の中で僕がもらった役目は人数が足りない分野にヘルプするという役目だ。僕を含めて5人がやってる。
メモして忘れないようにしても次の日にはまた違う部署で働く。中途半端な知識はあっても何処の位置にもいない。だからこの会社を知らない。
でも周りはよく僕の名前を言う。
『それ広野に頼んだ』
『広野、これの後は頼む』
『広野、お前仕事舐めてんの?』
繰り返される毎日は、色も音も無く淡々と過ぎていく。
代わり映えしない、そんな朝だった。
「広野、悪いんだけどこの犬捨ててきて」
その言葉を聞いた時は、さすがに。
「今日会社に着いたら入り口にダンボールあってさ、中見たらこの犬いたんだよ」
「…………す、てる?」
「ちゃんと俺の話聞いてる?捨ててこいって言ってんの、コレ」
コレ、と渡されたダンボールは冷たいし小さくて。
「まー、たぶん、そろそろ死んじゃうからさ」
まるで死ぬから大丈夫だよと言ったみたいだ。営業の松野さんは手をひらひらさせてすぐに背中を向けて去って行く。
受け取ったダンボールの中を見れば汚れた茶色の小さな子犬が弱々しく僕に鼻を向けてクンクンと匂いを感じ取ろうとしてきた。子犬は箱の中で寒そうに震えていて、素人目から見ても弱っているのは明らかだった。
これはさすがに違うって。
営業用の車のキーを受け取り、すぐにエンジンをかけて暖房を最大にする。
古い車は暖房なんてすぐに効いてはくれないくて暖まるまではそれなりに時間がかかる。
エンジンを回転させる為にギアをPに入れたままアクセルを踏み、現場担当の誰かが工場から顔を出してた。
噴かした音が駐車場内で響いても関係ない、だって死にそうな子犬がダンボールの中にいたから。
最初のコメントを投稿しよう!