枯れ落ちる

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混雑する小さな居酒屋に着いたのは文也の方が早かった。 久しぶりに見た訳でもないのに文也は少し痩せたようにも見えて、僕の顔を見るなり他人行儀にペコっと頭を下げる。 それにクスクス笑って向かい合わせに座ると、店員にハイボールを頼んだ。 「……仕事相変わらずサービス残業?」 「うん、相変わらずだよ」 綺麗なヘーゼル色の瞳は僕を見ずにビールばかり見ている。 「文也、どうした?」 どうしたもこうしたも無いだろうと自分にツッコミ、本当にややこしくしてくれたもんだと誠司さんを呪う。 もしも芹澤さんを好きじゃなかったらそうも思わなかったんだろうなって考えだして、また今すぐ会いに行きたくなるんだから本当に僕って男ばダメ人間だ。 「ねぇ、文也ってば」 「あの……ごめん」 きっと色んな意味がこもったその一言。僕はそれだけで十分で、本当に今は誠司さんなんかどうでもいい。 恋愛体質とかって僕のような事を言うのだろうか? 「まず飲もうよ」 ちょうど運ばれてきたハイボールのグラスにはレモンの輪切りが更に半分になったものが浮かんでた。こんなんでも芹澤さんを思い出してため息が漏れてしまう。 乾杯した後もずっと黙ってる文也にそろそろ集中しないと、そう思っても好みじゃないハイボールを飲むたびに昨夜を思い出してまた飲んでは思い出す。 時計を見れば花ちゃんが眠ってる時間で、花ちゃんともマメトコとも会いたかったなってまたため息が漏れた。 「……ごめん、陸。……俺、最低で」 頬杖をつきながらそんな事ないとすぐに言いたいのに、ハイボールを口に含んでしまってまた僕の思考は持ってかれた。 「すみませーん!ビール一つ」 もう我慢出来ないこれじゃあ話に集中出来ない、少ししか飲んでないハイボールをビールと交換すると改めて文也を正面から見て笑顔を向けた。 「文也は悪くないんだから謝る必要ないよ」 「でも……最低な事をした」 「最低な事なんて、振ったり振られたりはある事だよ」 直美さんが話していた事をそのまま伝えて、元気を出せと。 「それだけじゃなく、男好きになって……気持ち悪いとかさ」 「あー、でもさ、そんなの男も女も関係ないよ」 これは芹澤さんの言葉だ。もう完全に支配されてる従順な犬だ、まあでも不安定な犬よりはいいのかも。 「誠司さんのこといいなって思って、そしたらこうなって……俺、陸のこと、裏切って……」 「いいよそんなの。でも本当に誠司さんと付き合ってるの?」 泣き始める文也を見ているとまたあの笑顔を思い出す。 嘘臭い、あの笑顔。  
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