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「陸くん!大丈夫?」
誠司さんは心配してカウンターから走ってくる。僕はバカみたいにまた泣いて、誠司さんに掴まり、今まで芹澤さんが座っていた椅子に腰をかけた。
「芹澤に何か言われた?」
「……文也を……大切にしてよ」
「え?」
「大切にしてよ!恋人なんでしょ!なんで僕に……文也は大切な友達だったんだ!」
全部がアンタの所為だと結びつけて話したくなる、そんな八つ当たり程度の叫び。
そして今聞いたばかりの芹澤さんの言葉を思い出して苦しくなる。
「僕は……芹澤さんが好きで……文也と会って、でも、また誠司さんから連絡が来て……」
どうしてこんな男に話すんだろうと自分でも思ってた。
「あー、なるほどね。…….そうだよね」
妙に納得した誠司さんは目尻にくしゃっと笑い皺を出して微笑んで、いつもとは違う笑い方をしていた。きっとこの人は、本当はこんな風に笑うのかもしれない。
「ごめんね、俺の責任だ。……だから芹澤もあんな怖い顔してたんだ」
「……怖い、顔?」
「まぁそれは二人で後で話してよ。それより、文也のことは謝るよ、申し訳なかった」
「文也を……大切に……」
「うん、約束するよ。絶対に幸せにする。今日はね、直接陸くんに言いたかったんだ。本当に申し訳ないことしたからさ」
それから誠司さんはココアを作ってくれて、この店にココアなんてあったんだって僕は涙で歪んだ視界の中でそれを見る。
「可愛いなって思ったんだよ、君のこと。
でも文也も可愛くてさ」
「……結構、最低ですね」
「え?あはは、本当だよね、俺もそう思う。文也に対しては本気になっちゃって、そしたら苦しくなってさ」
出されたココアはとても甘くて美味しかった。
「陸くんにはもう連絡しないよ、そう伝えなきゃって思ってね」
「そんなのLINEでいいのに」
「だってそうなってるなんて知らなかったからさ。そしたら芹澤が、あははは……いやごめんごめん、でもとにかく、俺が悪いんだから仲良くしてよ」
腹黒いなとは正直思ったけれど、文也を大切にするならそれでいいのかもしれない。
後はもう、僕だけの問題。
きっとこの恋はまた枯れ落ちる音がする。
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