枯れ落ちる

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芹澤さんの誤解を何とかしたくても、あの後に何度電話をしても結局繋がることはなかった。 悶々と考えて眠るのを忘れた僕は、昨日の事を頭の中で繰り返して、いつものように出勤する。 仕事が終わったら真っ直ぐ芹澤さんの家に行こう、そう決心して弱い自分を奮い立たせた。 ─── でも、予定通りなんてない。 「おい、広野」 「はい」 呼ばれて振り向けばそこには松野さんが立っていた。 「あの犬どうした?」 「新しい飼い主が見つかりました」 「うっそ?」 「元気ですよ、すぐ元気になりました」 「飼い主って知ってる人?」 「……はい」 マメトコを捨ててこいと言ったくせに、笑いながらどうした?なんて聞いてくる松野さんを睨みたくなって深呼吸する。 「会社に近い動物病院の先生です」 「え?せりざわ?せりざわ動物病院?」 「松野さん知ってるんですか?」 「知ってるも何も、この辺じゃ有名だよ?あの人」 無愛想で有名、そんな感じか。 「奥さん、車に轢かれてくたばった所の医者だろ?」 可哀想に子供を産んだばかりだったっけ? 旦那が取り乱しておかしくなったって聞いたけど、まだ病院やってたんだ? 運が悪かったよな〜でも、運転手も被害者って言えば被害者だよな?どうせチンタラ歩いてたんじゃないの。 まぁ人の不幸は蜜の味ってな。 その時、いろんな事を思い出したんだ。 たった数日の楽しい時間、芹澤さんと花ちゃんがどれだけ夏美さんを必要としていたか。 くたばるとか、どうして被害者をそんな風に言えるんだって。 運が悪いなんて、それで片付くはずのない深い傷。 頭が真っ白になって、気付けば松野さんは床に倒れて唇から血を流してて、僕は馬乗りになっていた。 だっておかしい。 どうして笑いながら言える? 人の不幸は蜜の味、それって本気? 「おい!広野!」 周りの騒がしい声が近付くと、松野さんの拳が僕の顔面に当たって鈍い音がした。生温かいものが目に入って、片目を閉じる。でも痛みは無くてまた拳を振り上げれば、僕の腕は同僚たちに拘束されて叫んでた。 「広野!!やめろ!」 「やめろ?ふざけるな!!──── 夏美さんに謝れ!!!」 きっと僕はこの日の為にこの会社に居たんだと思う。 じゃなきゃ、やってられないじゃないか。  
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