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「はぁー?そんでクビになったの?」
「まー、うん。貯金も全部松野さんへの慰謝料になって……まぁ大金じゃないけどね」
「お兄ちゃんバカじゃないの?」
妹の辛辣な言葉と大声にまだ痛みの残る顔を歪ませてしまった。暴力は何も生まないとは言うけれど後悔は今のところ全く無い。
「それで?どうするのよ?貯金なんて私も無いわよ?」
「帰ろうかなって思って」
「こっちに?」
「うん。最近いろんな事があり過ぎて疲れちゃって。此処に居れば家賃も払わなきゃいけないし、収入も無くなったし」
「仕事探す気がないのか、お前は」
顔の左側は完全にガーゼで覆われてて、唯一見える右側の目は真っ赤。瞼は紫色で大きく腫れ上がっている。
ため息を吐いて鏡をしまうとまたベッドに寝転んだ。
「しかしお兄ちゃんが乱闘騒ぎとはね、よっぽどの事があったんだね」
「んー、まあ」
「理由教えなさいよ」
「思い出したくもないんだよ」
クビになって既に三日が過ぎていた。
松野さんは僕より酷くはなくて、馬乗りになってまで殴ったのに力の差ってこんなに出るのかなんて情けなかった。
謝罪はしたけれどそれはただのパフォーマンスみたいなもので、頭を下げながら心の中で舌を出してたのは僕だけの秘密だ。
「こっち帰って来るなら引っ越し手伝うよ」
「うん、その時はお願い」
「はーい」
電話を切るとまた眠りたくなる。
現実逃避って眠るのが一番手っ取り早く時間が過ぎてて、もっと早くこれに気付けば良かったなって。会社ダメになって分かったことはそのくらいだ。
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