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最終章
もう彼が死んでから一ヶ月あった。それからも瞳の奥に闇がある他人を見た。全員、すぐに消えた。みんな生者の世界に行ってしまった。僕はずっと一人だ。でも、一人の方がきっといい。みんな消えてしまうなら。
早く、消えてしまいたい。
今日は台風が近づいているからか昼間かと疑うくらい暗かった。こんな日は何か出会いがありそうだと思う。物語の中では逆に太陽の下で出会うのだろう。でも、そんな世界線はきっと生者の世界にあるのだろう。だから真逆な死者の世界にはそんなものはない。しかも、こんな僕には出会いはないのだろう。そう思った途端、背後から足音が聞こえた。
「ねぇ、君は黒木竜也だよね」
「何を言ってるの、急に変なことを言うと嫌われるんだよ」
まるで友達とでも言うかのような返事をしてしまった。何故だ、僕は彼以外まともに話したこともないのに。
「ねぇ、黒木君はなんであっちの世界に行かないの?」
あっちの世界、というのは生者の世界のことだろうか。でも、何故彼女はそのことを知っているのか。
「なんでそんなこと知ってるの?」
「だって、私にも見えるもん。君の瞳の奥の闇」
彼女の言うことは意味が分からなかった。彼女にも瞳の奥の闇が見えるのは僕だけだと思っていた。もし彼女の言っていたことが本当なら、今僕が消えれば彼のいる生者の世界に行ける、ということ。ならば、もっと彼女に聞かなければ分からない。
「君が誰かは知らないけど、何でそんな」
ずっと考えていたらいつの間にか俯いていたらしい。今声を上げた途端に前を向いたら、彼女はもういなかった。
彼女の言っていた黒木竜也という名前。前にも聞いた記憶がある。誰に呼ばれたのかはもう覚えていない。だけど、あの名前はきっと、僕の名前だったのだろう。
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